PenNマイク2018.05.23 09:00

                                          李春根客員コラムニスト(国家戦略フォ―ラム研究委員)

 金正恩は今年1月、“米全域を攻撃可能な核兵器完成”とぶち上げたわずか100日も経たず“核を廃棄し得る”と言った

 南北会談を見た米国がCVIDを拡大、中短距離ミサイルと生化学兵器の廃棄+「北韓人権」も強調

 日本はトランプ説得して、拉致日本人問題の解決と中・短距離ミサイルの廃棄も要請

 トランプは金正恩の安全を保障したが“もし会談に応じないと、北韓を死滅(decimate)させる”

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 金正恩は2018年1月1日、‘新年辞’を通じて、北韓の核能力が米国に立ち向かえるほどになったとぶち上げた。彼は、自分の‘事務室’には、いつでも米国全域を攻撃できる大陸間弾道ミサイルを発射するボタンがあると言った。‘核のボタン(Nuclear Button)’という用語は、核戦略を研究する学者たちが一般的に使用する用語ではあるが、核兵器を実際発射する場合、ボタンを押すことはない。米国の場合は、大陸間核弾道ミサイルを発射するためボタンではなく‘鍵’を使用する。最近の新型車はボタンを押してエンジンをかけるが、ほとんどの旧式の車は鍵を差し込んで回してエンジンをかけるように、だ。

 そもそも金正恩の言及には虚構的な要素が多かった。いずれにせよ、国家指導者が核ミサイルを直接発射することはあり得ない。ところが、彼は決定的な状況で自分が核のボタンを直接押すかのように喋った。核のボタンという概念は、核保有国の国家元首がいつでも直ちに核兵器を発射できるという概念であることは正しい。核のボタンというものは敵が挑発したら、いつでも直ちに対応するという意味の‘核抑制(nuclear deterrence)’のための装置だが、金正恩の話はこの側面でも間違ったものだ。米国大統領の傍にはいつも黒いバッグを持って大統領を遂行する中佐級の将校がいるが、彼が持っているバッグがサッカーボール(Foot Ball)というコードネームの核バッグだ。この核バッグは、ソ連が先制攻撃したとき、直ちに反撃するための安全装置として作られたものだ。

 ソ連の核ミサイルが発射されれば、米国本土の主要な標的に到達するまで約30分ほどかかる。もし、ミサイル発射を探知してから、米国が報復攻撃までの時間が30分を超える場合、ソ連は米国を先制攻撃したい誘惑に駆られる。逆の場合も同様だ。それで、米国とソ連は共に相手が先制攻撃を加える場合、ほぼ即座に報復攻撃を断行できる方案を講じた。

 いつも米国大統領を近くで随行する核バッグは、ソ連の攻撃に対抗して、米国の核ミサイル部隊に攻撃を許可するための装置だ。核バッグを開けてから数分でミサイル部隊に命令が到達する。このように、米国とソ連は敵の攻撃に直ちに報復攻撃を加えられる装置を持っているため、どちらも先制攻撃を敢行する思いもよらなかった。それで金正恩がこのような事実(核抑止の状況)をもっと正確に描写しようとしたら、‘私の事務室’ではなく‘私が演説している今このテーブルの上にも、核のボタンがある’と話すべきだった。

 だが、金正恩は米国全域を攻撃できる核兵器があるとぶち上げたわずか100日も経たない3月の初め、“核を廃棄し得る”と言い、それは‘先代の遺訓’であると正当化した。非核化が先代の遺訓という話も信じられないことだ。それが本当に遺訓だったら、遺訓統治の国である北韓が先代の遺訓を数十年間も逆らったからだ。では、急に先代の遺訓を遵守せねばならない事情でも生じたのか。今から51年前の1967年、金日成は‘我々も原爆を持つようになった。米国が使用すれば、我々も原爆を使用できる’と核保有の念願を言ったことがある。また金正日は、‘首領の存命中に祖国を統一するためには、一日も早く米国に届く核ミサイルを持たなければならない’と話し、中国が韓国と国交した直後の1994年、金正日は北韓の核科学者を集め‘信じられるのは核しかない’と話した。

 2017年の1年間、勢いよく核実験とミサイル発射実験を強行した金正恩は2017年5月15日、‘子孫万代に譲られる主体弾が完成した’と核武力の完成を自慢した。5月14日に発射したミサイルの実験成功を祝うパーティーで、北の人々は感動の涙を流した。2017年11月19日、大陸間弾道ミサイルの発射に成功した金正恩は、北韓が完全な核保有国となったことを宣布した。

 そのように核強国になったことを自慢した北韓が、わずか3ヶ月後‘完全でかつ検証可能で、不可逆的な核兵器の解体’に同意し、米国と対話すると出たのだ。その背後には、米国が軍事力の使用を含む無茶苦茶に圧力を加え脅迫した事実がある。しかし、まず対話をしようと‘先に’提案したのは北韓側だった。金正恩が3月5日、平壤を訪問した韓国の特使たちにトランプ大統領と会談する意思があると言ったのだ。この話を聞いた鄭義溶青瓦台安保室長一行は3月8日、ホワイトハウスを訪問し、この事実をトランプ大統領に伝え、トランプも金正恩に会うと答えた。

 急に世の中が変わった。金正恩が、‘核廃棄の会談’でなければ、北韓と対面する必要もないと一貫して主張してきた米国と対話すると言うなんて。どうやら金正恩は絶体絶命の追い込まれた状況だったのが明確だった。米国の執拗な制裁のため、北韓の経済は破綻状態になり、これ以上抵抗しては米国の軍事攻撃に遭うと判断したのだ。実際、米国はいつでも北韓を武力攻撃する準備を備えた状態だった。

 金正恩は4月27日、板門店で文在寅大統領に会い、以前よりは‘あいまいな’表現ではあるが、‘完全な非核化’を約束した。もちろん金正恩は、自分の口から非核化を言及はしなかった。4月27日の板門店会談を通じて金正恩は、少なくとも韓国人たちに対しては、悪魔のイメージを一瞬に変え、‘兄さん部隊’まで作るのに成功しました。金正恩は韓国を‘制圧’することに成功したと思ったはずだ。そして、米国との会談を準備した。

 ところで、米国との会談を準備する間、金正恩が予想しなかったいくつかの物理的、政治的な頭痛の種が露呈し始めた。米国がそう出てくると予期すべきだったが、北韓が米国の実体を正確に分かっているかは不明だ。米国の要求は非常に厳しいだけでなく、北側が見るには米国の要件がますます大きくなっていた。南・北間の接触を見ていた米国は、それまで言ってきた完全でかつ検証可能で、取り戻しのできない非核化(Complete、Verifiable、Irreversible Dismantlement)、すなわちCVIDをさらに拡大し強調した。つまり、米国は完全な非核化を永遠な(Permanent)非核化と変えて話し始めた。率直に言ってCVID(完全な非核化)もPVID(永遠の非核化)も似たようなものだ。‘I’を意味する‘Ireversible(取り返しのつかない)’がまさに永遠の非核化を意味するからだ。米国は、核兵器はもちろん、他の大量破壊兵器まで廃棄することを要求し始めた。

 米国まで届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)はもちろん、短距離・中距離ミサイルや、生物兵器などの他の大量破壊兵器まで解体するよう要求したのだ。さらに米国は、人権問題も持ち出した。米国時間の4月26日、つまり南北首脳会談が開かれたその日、北韓当局の拷問や虐待で死んだオートワームビア(Otto Wombier)君の親が、北韓当局が告訴したのだ。4月29日、米国国務省は、過去60年間、北韓は‘金氏一家によって支配されている独裁国家’であることを糾弾する人権報告書を発刊した。

 日本の安倍首相は、南北首脳会談が開かれる数日前トランプに会って、日本人拉致問題まで解決するよう頼み、日本の小野寺防衛大臣はマティス米国防長官に会って北韓の中距離・短距離ミサイルまですべて廃棄するよう要請した。

 韓国メディアが英語単語も間違った‘パッシング(Passing)’という言葉を使いながら、日本がパッシングを恐れていると言っているが、実は、日本は自分の要求をすべて伝え、そのため米国に隠密に脅迫もしていた。米国に届く大陸間弾道ミサイルと核だけを凍結すれば、日本は黙っていないことをさりげなく示唆したという意味だ。日本が核武装すれば、米国はどうするつもりで、特に中国はどうなるかを想像してみよう。トランプは、日本人の拉致問題を解決することに最善を尽くすと約束し、他の米国の官吏たちは、中・短距離ミサイルや化学兵器まで言い始めた。

 韓国と米国の反トランプ媒体らが‘ボルトンとポムペオが不仲になった’など、話にならないことを言っているが、ホワイトハウスの対北政策を事実上主導するボルトン国家安保補佐官は、北韓の核問題のリビア式解決を要求し、完全な非核化の前には何の補償もないことを強調した。北側が反発するやリビア式ではなく‘トランプ式’であると言い換えているが、リビア式の本質は、核を放棄するのが優先で、補償は後という意味だ。もちろん、リビアのガダピは核を廃棄する途中、国民の民主化運動に直面し、米国はガダピに対抗するリビア国民を制圧しなかっただけだ。米国がガダピを殺したのではない。ガダピは、彼に反対する自国民に殺されたのだ。

 そのうち、金正恩は5月8日、またひそかに中国を訪問し、今回は飛行機を利用した。5月10日にシンガポールと確定された、トランプとの会談を準備するため飛行機でリハーサルをしたかのように言う人もいるが、正確な分析ではない。金正恩が大連まで乗って行った飛行機は、シンガポールまで飛べない短距離用航空機であるからだ。旧ソ連が製造したイリューシン76(IL-76)は航続距離が5,000Kmで、最大6時間を飛行できる。仁川空港からシンガポールのチャンギ空港まで大韓航空の新型旅客機が約6時間20分かかるから、金正恩が5月8日、大連まで約350Kmを飛行したのとは比較できない、長時間でかつ長距離だ。現在、北韓の飛行機の中で、シンガポールまで行ける飛行機は航続距離10,000Kmのイリューシン62(IL-62)だが、非常に古い機種であるため金正恩が安心して乗れるか分からない。くだらない話のようだが、格式と形式が強調される外交の世界で乗れるほどの飛行機がないことも、金正恩をイライラさせる事案と言えよう。金正恩が板門店に来たとき乗ってきた見栄えのあるドイツ製の車を考えてみろ。

 金正恩を困った状況にしたもう一つは、6月12日という特定の日付が早すぎた決定だったということだ。もちろん、米国にとって6月12日は、遅すぎた決定かも知れない。会談を準備するのにわずか一ヶ月の余裕しかないからだ。北韓問題の専門家たちは、北韓の媒体らが金正恩の日程を事前に発表することがほとんどなかったと事実を知っているはずだ。平壤の媒体は、金日成、金正日、金正恩の日程をあらかじめ発表しない。つまり、指導者の動線を事前に発表しない。

 最近、われわれは金正恩が中国を2回訪問した事実を知っているが、いつも過去形で発表された。つまり、いつ‘訪問する’ではなく‘訪問した’だった。その理由は、金正恩の警護問題のためだ。金正恩が主席宮をいつ、何日間留守にすることが明確な日程を事前に発表することは、前例のない稀有なことだが、6月12日、金正恩が平壌にいないという事実が万天下へなんと1カ月の前に知らされた格好だ。おそらく6月11、12、13日、平壌の主席宮は主人が留守の家だ。それでも金正恩は自信があるだろうか。それで、北側があれこれ言い訳を出して米国との首脳会談を霧散させる方法を探しているのではないだろうか。

 ついに北韓は、実際には話にならない言い訳を見つけた。北側は5月16日、金桂寛外務省第1副相の名義で発表した‘談話’で、米国が北韓に一方的に核放棄だけを強要する対話には興味がないと言い、北-米首脳会談(6月12日、シンガポール)に応じるかどうか考え直すと発表した。翌日の17日、李善権祖国平和統一委員会委員長は“南北高位級会談を中止させた重大な事態が解決されない限り、南朝鮮の現政権と再び向き合うことは容易に実現しないだろう”と言ったと朝鮮中央通信が報道した。始まってから数日間も黙っていては突然、韓米両国のマックスサンダー(Max Thunder)空軍訓練に言い掛かりをつけたのだ。金正恩は米軍の韓国駐留も問題としないと言ったのに訓練に言い掛かりをつけるなんて、それも既に進行中に、笑うしかない。

 北側の文句に対する米国の反応が驚くべきだ。特に、米国の国会議員たちが驚くべきことを言っている。彼らは‘すでに会話を嫌う相手とあえて対話する必要があるか’と話している。共和党の重鎮で、大統領に立候補したマルコ・ルビオ議員は、北韓が米北会談が開かれないことを示唆したことと関連し、“それなら北韓は会談を取り消すべきだ”と話した。米朝会談がない場合、制裁は続き軍事圧迫もそのまま維持されるということだ。金正恩との首脳会談を望んでいるトランプも、北側に対してもっと強力に反駁した。

 まず、北韓はボルトン補佐官の言及に言い掛かりをつけた。ボルトンがガダピのように、金正恩を除去しようとしているという。韓国の媒体らが、金桂寛がボルトンを解任できるかように書いているが、米国のウォールストリートジャーナルは、ボルトンとトランプの見解は全然違いがなく、ボルトンはトランプに諮問し続けるべきだと書いている。

 平壤側がボルトンのリビア式モデルを非難したことに対するトランプの話が荒唐だ。トランプは、米国はガダピには安全を保障してあげなかったが、金正恩には安全を保障してあげると言ったのだ。米国のメディアがこれを報道するため用いた英語の単語が荒唐だ。Foxニュースは“トランプは金正恩が権力の座に留まるのを‘許す’(Allow)ことにした”、“トランプは直接、金正恩を‘保護’(Protect)するという話をした”などを字幕で報じたが、実際トランプは‘ Protect’という単語を直接語った。Allow、Protectという用語が使われる事実は驚きだ。トランプ大統領が金正恩の継続執権を許し(Allow)、保護(Protect)してあげると言った。この言葉がどれほど恐ろしい意味を持つ言葉なのかを見てみよう。

 まず、ガダピを殺したのはガダピの抑圧に立ち上がったリビア国民だった。もっと正確に言えば、ガダピに反対するリビア人たちで構成され叛軍がガダピを無惨に殺したのは事実だ。米軍が射殺したのでない。米国がリビアの核兵器施設を査察する途中、リビアで民主化運動が起こり、米国は民主化運動を‘鎮圧’しなかった。当時、チュニジアで始まった民主化の炎が中東地域のあちこちで独裁者たちを倒していた。ジャスミン革命と呼ばれた中東の民主化革命はリビアに伝播されガダピを権力の座から引き下ろしたのだ。米国が中東の民主化をあおったと考える人もいるが、リビアをはじめ、アラブ諸国の住民たちが政府に立ち向かって反乱を起こした最大の理由は、ガダピや他の中東諸国の指導者たちの独裁と無能にもたらした経済破綻のためだった。

 北韓がリビア式は嫌だと米朝首脳会談をボイコットすると言ったら、トランプが(米国が)ガダピは‘約束しなかった’保証をすると出たのだ。トランプは、北韓が完全非核化をした後、金正恩が政権を維持できるし、米国はそれを‘許し’さらに金正恩を‘保護’してあげると言ったのだ。トランプはしかし、もし金正恩が会談に出ない場合、北韓を‘死滅(decimate)’させると警告した。トランプがわざとそう(間違って)言ったかは分からないが会談に出ないと、リビアのようになると言った。ガダピは、米国との会談に出て約束したが、死んだのだと言うのが正確だ。

 では、トランプは金正恩をどう保護できるだろうか。最も確実な方法は‘米軍’が平壌に進入して金正恩政権の安寧と秩序を保障することだ。言葉だけの体制の安全保障を金正恩は決して信じられないはずだ。米国が何かをやって見せることで保証せねばならないが、米軍の北韓駐留の他の方法がない。今、米国と北韓を見れば、1905年の乙巳保護条約が思い出される。無気力な高宗は、日本に朝鮮を渡しながら一つを頼んだが‘自分を廃位させず助けて欲しい’ということだった。乙巳保護条約の第5条は、日本が高宗の願いを叶えてあげたことだった。第5条は“日本政府は、韓国皇室の安寧と尊厳を維持することを保証する”となっている。今、トランプ政府は金正恩体制の安寧と尊厳を保持することを保証するから対話の場に出るかそれともdecimateを選択するよう圧迫しているのではないか。

 金正恩は二つのうちどちらを選ぶだろうか。トランプが保障するのを受け入れるか。それとも会談に応じず死滅するだろうか。前者を選択すれば、金正恩は稀代の賭博だ。打ち殺すべき米国が保証してくれる生を生きなければならないからだ。率直に言ってどれほどもっと生きられるのかも定かでない。後者を選択することはともすればそのまま死ぬことだ。ジレンマである。金正恩の悩みは、祖父と父の代から普遍的な原則を無視し、最悪の人権蹂躙の独裁政治をしてきた北韓政権70年の報いと言えよう。

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