莞草で作られる小物入れや器「莞草(ワンチョ)」とは、イグサによく似た、日本名カンエンガヤツリ(カヤツリグサ科)という1年草で、韓国では「ワンゴル」とも呼ばれています。この莞草を編んで小物入れや器を作る「莞草工芸」は、韓国の代表的な伝統工芸のひとつです。
ワンゴルは湿地帯に生息し、背丈は長いもので2メートルにも達します。日本では絶滅危惧種のII類に指定されている非常に珍しい植物です。仁川(インチョン)広域市の江華島(カンファド)は、古くから良質の莞草が生息していることで知られ、今もなお最大の莞草生産地です。江華島の莞草は、柔らかくて強く、白色で艶があります。より白いものにするために、刈り取った莞草の皮を1枚むいて使う地方もありますが、江華島の良質な莞草は皮をむかずに使われるのが特徴。皮をむいたものに比べ、艶と丈夫さを兼ね備えているのです。
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“ござ”からさまざまな容器にいたるまで、色や柄も多彩な莞草(ワンチョ)工芸は生活に必要な道具に活用されてきました。
.「ファムンソク」と「コッサムハプ」江華島の莞草工芸でもっとも有名なのが、四角く編んだ花ござの「花紋席(ファムンソク)」と、丸く編んだ「花三合(コッサムハプ)」。平座生活様式の韓国では古くから敷物として、また小物入れなどに広く使われていました。
ファムンソクが江華島で作られ始めたのは高麗時代末期の13世紀といわれています。相次ぐ蒙古の襲来で、一時的に都を開城から江華島に移した際、そこから移り住んだ住民が副業として始めたのです。良質な材料を使った江華島の優れた莞草工芸品は、長い間、王室へ献上されていました。
江華島は韓国で5番目に大きい島で、周辺に15の小さな島が存在しています。ファムンソクはおもに江華島の本島で作られていますが、コッサムハプは、江華島の西に位置する小さな島、喬桐島(キョドンド)を中心に作られてきました。一時は、喬桐島のほとんど全世帯、200を超える世帯で、農閑期の副業としてコッサムハプを作っていました。しかし、生活様式の変化と安価な中国製の流入などで、現在は生産量が激減しているのが現実です。
円形でふたのある容器は“合(ハプ)”、その大・中・小のセットを“三合(サムハプ)”、そして、その中で模様のあるものは、“花三合(コッサムハプ)”と呼ばれています。莞草を円形に編んだものの総称として使われることもあります。
このような円形に編んでいく技術は、さまざまな工芸品で使われています。食物の保存や裁縫箱などに使われる“単合(タンハプ)”という蓋付きの容器、結納の品を入れる箱として使われる四角い容器 “四柱単子(サジュタンジャ)”、“花方席(コッパンソク)”と呼ばれる座布団のほか、最近では帽子やアクセサリーなどが、この技術によって作られています。
“ござ”からさまざまな容器にいたるまで、色や柄も多彩な莞草(ワンチョ)工芸は生活に必要な道具に活用されてきました。
同じ莞草工芸でも、ファムンソクは半自動の機械で編むケースもあります。しかし、円形が基本になるコッサムハプは機械で編むことができず、すべて手作業で作られます。それも分業をすることなく、最初から最後まで、すべてひとりの職人が地道に編んでいきます。なにより肝心なことは、“緻密に編む” ことだそうです。
円筒形の容器は、外側と内側の2つを別々に作り、それをはめ込んで完成。熟練した技術者ほど、外側と内側の2つのコッサムハプがぴったりとはまり込み、見た目よりも丈夫です。熟練した技術者が、1日12時間作業しても、1ヵ月に大・中・小のセットを、4~5個作るのがやっと。熟練した職人による莞草工芸は、それだけ希少価値のある逸品なのです。
写真は全て重要無形文化財103号、莞草匠李相宰(イ・サンジェ)巨匠の作品です。
1996年:重要無形文化財に指定
1963年:江華民芸品展 大賞
第9回、24回 京畿道工芸品展 特選
1994年:全国工芸品展 特選