床屋道話57 ウィル・スミスとプーチン

二言居士

 

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 このまえのアカデミー賞授賞式の出来事だ。ある人物が俳優ウィル・スミスの妻の容姿をネタに侮辱的な発言をした。これに怒ったスミスが登壇してこの人物をひっぱたき、このため処罰を受けた。スミスは妻思いなのだろうが暴力はまずいとして処罰はやむを得まい。またこれによって人々の関心や論議は元の問題発言よりもスミスの行動に向けられてしまった。彼のような有名人なら、手を出す以外に批判する方法は多いはずだ。

ロシアのウクライナ侵攻の理由は何か。当初ロシアが言った、ウクライナの中立化(NATO加盟の阻止、または加盟をめざす反ロシア政権の打倒)が最大の目的だったと受け取ってよいと思う。ウクライナを滅ぼすとか全体の併合をもくろんだというような推測は無理だろう。ロシアをそもそも悪魔的な侵略国とみなすのは陰謀論的な偏見であり、欺かれていないロシア国民は政権に賛成していないことも見逃してはならない。なんとかにも三分の理と言うのは、この場合にも多少は妥当する。想像してみよう。たとえば韓国と北朝鮮が統一を遂げ、「反日」を方針としてプサンなどに日本に向けたミサイルなどを並べたらどうか。他国の自由であるとして黙ってみているだろうか。もちろんそれにしてもロシアは、軍事侵攻することですべてをだめにしてしまった。ウクライナ国民に対しては無論、自国民に対してもプーチン政権は大きな損害を与えた。ではどうしたらよかったのか。武力以外の方法で相手に、また国際社会に働きかけるべきであった。ゼレンスキー政権下でロシア系住民が対等に扱われなくなった事例があることは、すべてがロシア側のフェイクではないと思われる。しかしそういうことは「手を出す」前に周知させるのでなければならない。いちばん根本的なところで言えば、ウクライナ国民に、ロシアを魅力的な国と思い、反ロシアの政権は支持されないようなロシアをつくることが、大統領の務めであっただろう。国際法違反の残虐行為が仮になくても、軍事侵攻にはまったく正当性がない。

「彼等」がどうすべきだったかはそれとして、では「我等」はどうすべきなのか。

アメリカの小学校で銃乱射事件があり、多くの被害が出た。高校などではもはや年中行事といった感もあるが、ついに小学校である。バイデン大統領は長年言われてきた銃規制に向け、「私達は行動しなければならない」と述べた。しかしこれにトランプ前大統領はさっそく反対の演説をした。「銃を持った悪人に対抗できるのは銃を持った善人である」として、教師に銃を持たせて訓練することを対策として挙げた。

これは力に対してより強い力で対抗するものである。それがよいのだろうか。相手が「悪人」ならば、もっと強い力で向かってくるようになり、いざというときの被害を大きくするだけではないか。そして相手が自分たちのほうが強いと(正しくなり間違ってなり)思ったときには、あるいはいちかばちかだと開き直ったときには、「抑止」はできない。むしろそのような力への信仰を克服することが、必要なのではないか。

日本の対外政策は、近年「戦争をする国」へ転換したが、このところの国際情勢の厳しさでこれを加速させる動きが強い。「敵基地攻撃能力」ということで専守防衛の放棄(少なくとも空洞化)や核兵器共有さえ語られだした。確かに平和を唱えているだけでそれで実現するというならば、ノー天気な「信仰」と非難され得る。「平和主義者」の側もその立場から、戦争を防ぐための積極的な方針を考える必要がある。いや既にいろいろ出てもいるので、少なくともそれらを知る必要はある。小生も基本的には平和主義者のつもりだが、専守防衛の維持といったことにとどまらない「積極的な方針」も少しは考えている。ここでは一つの論点に限り、そのための一つの提起だけを示すことにしよう。

尖閣諸島をどのように防衛するかの問題である。海自などの活動を無用とは言わないが、それとともに(ある意味でそれ以前に、そしてそれ以上に)重要なことがあるのではないか。日本政府は尖閣を「わが国固有の領土」と言っているが(そしてそれは正しいと小生も考えるが)、なぜそう言えるのかをちゃんと言える国民がどれだけいるだろうか。まずそれを自国民に対してはもちろん、国際的にも広く示すべきである*)。政府のホームページに出すのは、手間暇かかることではない。パンフレットも一冊百円でできる。日本語だけでなく、英語版、中国語版など大量に作ればよい。学生などに配るだけでなく、国内外の図書館などに寄贈すればよい。外国の外交官、専門家、ジャーナリストなどに送ればよい。そうした人や関心のある外国人に会う日本人にはたくさん渡して、お土産に渡すように頼めばよい。日本政府が会見や談話で「日本固有の領土である尖閣」というたびに、一言でもその根拠を言うべきである。記者などがより詳しい説明を求めるなら答え、中国側が反論するならそれが成り立たないことを示し、かみ合った反論が出きず(そのはずだが)に単に反対や「強烈な不満」なりを言うだけなら、「反論できなかった」としつこく言うべきである。こうして問題にされるほど日本の主張の正当性が世界中に広がり、誰もがいやというほど聞いてわかった、という状況をつくればよい。そして中国が領海侵犯など行動に出ることはもとより、言論で対抗しようとすれば、諸外国からも、そういう馬鹿な言動はよせとたしなまれるような状況をつくればよい。中国国民からも、そのような自国政府は恥ずかしいと思われるような状況をつくればよい。空母を作ったりするよりずっと安上がりでもある。

これに対してシニカルな力の信者は、そもそもそのような「正当性」を気にかける者は多くない、と言うかもしれない。であるならそのことも含めた対策に努めよう。すなわち、日本は(国益を追求するにしても)正当性に基づいて行動する方針であることを宣伝しよう。そして、(横井小楠が述べたように、)大義を世界に広めること、世界全体が道理に基づいてふるまうように尽力することが、日本国民の考えであることを知らせ、その支持者を増やしていこう。

*) 現政権がそれを行わない理由についての考察は長くなるので省く。



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トッド・グッドマン氏によるウォールアート
JUANITA HONG





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← ルボーク 『床屋の髭切り』
17世紀末のロシア帝国にて、勅令に従って“髭刈り”を執行する床屋(理容師。右)と、抵抗の意志を見せながらも応じざるを得ない古儀式派の大貴族(左)を描いた戯画。18世紀初頭の作。












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