床屋道話 (その27 インセンティヴの倫理

 その一:中村修二氏について)

                                                        二言居士

 

ことしのノーベル物理学賞に、日本人二人とともに日系米国人の中村修二氏が選ばれた。青色LED(発光ダイオード)の発明による。門外の多くの人と同様、小生が知っていた名前は中村氏だけであった。そしてそれは彼の科学上の業績によるが、それに劣らずその後の「社会問題」にもよる。彼がこの発明の特に実用化に向けた研究を行っていたのは、日亜化学工業という企業であった。この成功で会社は莫大や利益を得たが、中村氏には2万円の報奨金を与えただけで、しかも退職した彼を「企業機密漏えい」で訴えた。彼は2001年に自らが勤める日亜化学を逆に提訴し、一審で要求どおりの200億円の支払い判決を得た。会社は控訴したが、その後8億円で和解したというのが、我々に大きなインパクトを与えた「事件」である。

はじめは、会社がひどすぎることから、中村氏の行動は勇気ある異議申し立てと好感されていたように思う。しかし状況が進み情報も増えるなかで、中村氏への疑問や批判も現れてきた。「正当な権利」の要求を超えて、強欲それ自体を正当化しているのではないかと疑われたり、同じノーベル賞受賞者でも田中耕一氏の態度にみられたような「科学者としての純真さ」への一般人の思い入れを裏切るような「人となり」への幻滅ないし反発である。大手メディアに活字で現れたものとして、中村氏の著作『負けてたまるか!』に対する天外伺朗氏の書評をひこう。天外氏はCDやAIBOなどの「技術開発を、同じように無理解の中で進めてきた体験」など中村氏と「そっくり」としながらの批判である。「いかなる成功にも、大勢の目に見えない貢献が必ずある。それに対する感謝の念を忘れた成功者は、まことに哀しい存在だ。」青色LEDでは「最初に発光に成功した名城大の赤崎勇教授の名が本書に出てこないのは、なんとも寂しい」と。

天外氏は最後に、「米国の教授や学生が『ベンチャー企業の経営者』のようになり、成功を求めて必死になっている様子の礼賛には、正直言って首を傾げざるを得ない」としているが、これは先見性ある批評であった。今回の受賞でのインタヴュー(朝日、20141018日)で、中村氏は米国では「科学者であっても、ベンチャーやって新株予約権でお金を稼いで」、「上場したら、何十億、何百億になる」ことを礼賛している。まあ、動機が金でもいい研究を残せればいいじゃないかという考えはあろう。しかし小生がこのインタヴューで衝撃だったのは、彼が米国籍をとった理由を聞かれて答えた部分である。「米国の大学教授の仕事は研究費を集めること。私のところは年間一億円くらいかかる。その研究費の半分は軍から来る。軍の研究費は機密だから米国人でないともらえない」。なんと、中村氏は米軍から金をもらうために、日本国籍を捨ててアメリカ人になったのだ。もちろん、金を受け取れば「協力」要請は断れまい。金のために戦争に、しかも外国軍に協力する研究では、科学者としても人間としてもまったくだめではないか。中村氏の「インセンティヴ」とふるまいとは、おおいに非難されるべきものと考える。

念のために言えば、青色LEDは人類全体に価値ある科学的業績であることは小生は喜んで認める。また中村氏が「大反対」を表明している、いま政府が準備している、会社員の発明を会社の所有とする法律は、確かにおおいに問題であることもつけ加えておく。


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2014/12/26 18:17 2014/12/26 18:17
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