嫌いな曲
青春の虚匠
(『あるけえ』第22号1986年4月4日)
ラジオを聞いていると、この季節にきまってよくリクエストされる曲に、「卒業写真」がある。ユーミンとかいうお姉さまのものだそうで、実のところはじめそう悪くなく聞いた。
「♪人ごみに流されて 変わっていくわたしを」
というところなど、ニュー・ミュージック特有のメロディ・ラインと詞で、快い。
しかし聞いているうちに、だんだんいらだたしくなってきた。たとえばその次、
「♪あなたはときどき 遠くで叱って」
という結び。ひとに叱ってもらおうというのは調子のいい話だ。しかも面と向かって叱られることは回避して「遠くで」というのは、卑怯きわまりない。
好意的に言えば あなたの写真を見ると叱られる気がする という意味であろうが、反省はポーズだけの偽りである。実際彼女は、変わっていく自分を棚に上げて、しゃあしゃあと要求なさるのだ。
「♪あの頃の生き方を あなたは忘れないで あなたはわたしの青春そのもの」
世の中に出れば変わらざるを得ないだろうし、そこまで責めるつもりはない。しかしなぜ相手にだけ変わらないことを要求できるのか、ずうずうしさもいいところである。しかも彼女は、甘い感傷に包んでしまうことによって、青春を自分の現在から切り離し、現在の生活を合理化してしまっている。そのうしろめたさには、あなたに叱られる思いがする、ということ、あるいはあなたとの青春を、かっこうの免罪符として利用しているだけである。
青春は魂の永遠の道場であり、胸に刻み付けられた過去は、絶えず人を、静かにであれ燃え立たせ続け、――あるいは苦しませ続ける。「昔は若かった」というせりふを、自己弁護の言葉にしたくない。
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