嫌いな曲

青春の虚匠

(『あるけえ』第22198644日)

 

 ラジオを聞いていると、この季節にきまってよくリクエストされる曲に、「卒業写真」がある。ユーミンとかいうお姉さまのものだそうで、実のところはじめそう悪くなく聞いた。

  「人ごみに流されて 変わっていくわたしを」

というところなど、ニュー・ミュージック特有のメロディ・ラインと詞で、快い。

 しかし聞いているうちに、だんだんいらだたしくなってきた。たとえばその次、

  「あなたときどき 遠くで叱って」

という結び。ひとに叱ってもらおうというのは調子のいい話だ。しかも面と向かって叱られることは回避して「遠くで」というのは、卑怯きわまりない。

 好意的に言えば あなたの写真を見ると叱られる気がする という意味であろうが、反省はポーズだけの偽りである。実際彼女は、変わっていく自分を棚に上げて、しゃあしゃあと要求なさるのだ。

  「あの頃の生き方を あなた忘れないで あなたはわたしの青春そのもの」

 世の中に出れば変わらざるを得ないだろうし、そこまで責めるつもりはない。しかしなぜ相手にだけ変わらないことを要求できるのか、ずうずうしさもいいところである。しかも彼女は、甘い感傷に包んでしまうことによって、青春を自分の現在から切り離し、現在の生活を合理化してしまっている。そのうしろめたさには、あなたに叱られる思いがする、ということ、あるいはあなたとの青春を、かっこうの免罪符として利用しているだけである。

 青春は魂の永遠の道場であり、胸に刻み付けられた過去は、絶えず人を、静かにであれ燃え立たせ続け、――あるいは苦しませ続ける。「昔は若かった」というせりふを、自己弁護の言葉にしたくない。





-------------------------------------------------------------------------------------------------

◆仲島陽一の本◆ 本の購入が出来ます↓クリック


クリックすると「ルソ-の理論」の詳細情報ページへ移動します


ルソ-の理論
悪の原因と克服

仲島陽一 / 北樹出版
2011/12
¥3,045 (税込)


クリックすると「入門政治学」の詳細情報ページへ移動します



入門政治学
― 政治の思想・理論・実態

仲島陽一 / 東信堂
2010/04
¥2,415 (税込)



クリックすると「共感の思想史」の詳細情報ページへ移動します



共感の思想史

仲島陽一 / 創風社
2006/12
¥2,100 (税込)

2015/04/01 18:43 2015/04/01 18:43
この記事にはトラックバックの転送ができません。
YOUR COMMENT IS THE CRITICAL SUCCESS FACTOR FOR THE QUALITY OF BLOG POST