精神論〔1758年〕

 

第三部 第2章 感官の繊細さについて

 

 私はここでは感官の繊細さをその結果によってだけ判断するので、身体組織の完全性に必然的に含まれている、感覚器官の完全性の大小〔の違い〕は、人々の精神が等しくないことの原因ではなかろうか。

この件に関して幾分でも正確に推論するためは、感官の繊細さの大小が、精神により広がりを、あるいは真の意味に解されれば精神のすべての性質を含むより大きな正確さをもたらすかどうかを、検討しなければならない。

もし人々が、同じ対象からどんな印象を受けても、しかしながら常にそれら対象間の同じ関係を認めざるを得ないのならば、感官の完全性の大小は、精神の正確さに対しても何も影響しない。ところで、彼等がそれを認めることを証明するために、私達の観念の最大数をそこから得ているものとして、視覚を例に選ぼう。そして異なる目に、もしも同じ対象が大きさの大小や輝かしさの程度が違って見えるならば、もしたとえばある人の目には他の人より、一尺が数寸短く雪がさほど白くなく黒檀がさほど黒くなく見えても、この二人はしかしながら常に同じ関係を認めるであろう、と私は言おう。したがって一尺は常に彼等の目に一寸より大きく、雪はすべての物体よりも白く、黒檀はすべての木材よりも黒く見えるであろうと。

ところで、精神の正確さは、対象が互いに持つ真の関係をはっきりとみてとることに存するのであるから、また視覚について言ったことを他の感官についても繰り返せば、常に同じ結果に至るであろうから、外的であれ内的であれ、有機組織の完全性の大小は、私達の判断の正確さに対して何の影響も与え得ない、と私は結論する。

広がりと精神の正確さから区別するならば、感官の繊細さの程度はこの広がりに何も加えないであろう、とさらに私は言おう。実際、いつものように視覚を例にとれば、精神の広さは、他の感官は別だがとても繊細な視覚に恵まれた人間が、その記憶におくことができる対象の数の大きさに依存するであろうことは、自明ではないか。ところで、小さすぎて知覚し難いような対象のうちごくわずかなものが、まさに同じ注意によって、若くて訓練された目によって考察されても、ある者には認められ他の者には見逃される。しかしそれに関して、五体満足と私が呼ぶ人々の間に、すなわちどんな欠陥も認められない有機組織の中に自然がおく違いは、たとえ実際よりもはるかに重要だとしても、精神の広がりに対してはどんな違いも生み出さないであろうことを、私は示すことができる。

同じ注意力、同じ広さの記憶力に恵まれた人々を想定しよう。つまるところ、感官の繊細さを除き、すべてに等しい二人を想定しよう。この過程においては、より繊細な視覚に恵まれた人は、意義なく、この点でその有機組織がそれほど完全でない人には小さくて見えない、そうした対象のいくつかを相互に比べ、自らの記憶におくことができよう。しかしこの二人は、私の想定では、等しい広がりの記憶を持っており、望むならば二千の対象を含むことができる。なお確かであるのは、後者は、歴史的事実によって、視覚の繊細さが劣るために認めることができないような対象をおきかえられるということである。そして望むならば、前者の記憶に含まれる二千の対象の数をとらえるということである。ところで、この二人のうちで、視覚の繊細さが劣るほうの者がそれでも自分の記憶の貯蔵庫の中に他方と同数の対象を置けるならば、しかもこの二人がすべてに等しいならば、したがって同じだけの組み合わせをつくるに違いないし、また私の想定によって、精神の広がりは観念と組み合わせの数によってはかられる以上、同じ精神を持つに違いないならば、視覚器官の完全性の大小は、したがって、彼等の精神がどんな分野にひいでるかにしか影響できず、一方を画家や植物学者に、他方を歴史家や政治家にすることしかできない。しかし彼等の精神の広がりに対しては何も影響できない。だから、視聴覚の繊細さが大きい者と、眼鏡や補聴器を習慣的に用いてこの手段で、互いにまた他の人々の中に、この点で自然がおく以上の違いをおくような者とにおいて、精神の恒常的な優越は認められない。ここから私が結論するのは、五体満足と私が呼ぶ人々の間では、知性の優秀さが付与されるのは、器官の、外的であれ内的であれ感官の、完全性の大小にではないということである。精神の大きな不等性は、必然的に、別の原因によるということである。

 

【原注】

(a)私はこの章で、一般に五体満足の、どの感官も失われていない人々についてだけ話すつもりである。そのうえ狂気や愚かさの病気にも侵されていない人々についてであり、これらの病気は通常は、一つには記憶のほころびによって、もう一つは、この能力の全体的な欠陥によって生まれる。




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2017/03/02 01:48 2017/03/02 01:48
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