床屋道話44 けんかのしかた

 

 

 近頃話題になった、そして多く不評を買った二つの政治的言行をとりあげたい。

一つは、小池百合子都知事による、新党騒ぎでの「排除します」宣言である。なぜ非難されたのだろうか。政党は思いを共通する者がつくり、つまりそうでないものは排除するのが当然ではないか。少なくない党員が排除された民主党も、つくったときに「排除の論理」を唱えたではないか。しかし小池氏の排除宣言が批判されたのは当然だと思われる。①そもそも新党づくりの大義名分が、政権与党に対抗する勢力の結集とされた。ならばなるべく多くの者が加われるようにすべきなのに、はじめから民主党の半分には賛成でない主張への賛同を条件にしていた。議席を守りたければいま波に乗っているこちらにくっついていくしかないだろう、という傲慢さが透けて見えた。②物事の決め方もきわめて不透明であった。肝心なところはいまも(永久に?)藪の中だが、前原誠司氏がかつがれてしまったのではないかという疑惑がぬぐえない。

もう一つは、安倍晋三首相による、選挙の街頭演説での、「こんな人たちに負けるわけにはいかない」発言である。その場にいた、「安倍政治を許さない」プラカードを持った聴衆などを指してのものだ。擁護する声もある。選挙戦で相手に負けられないのは当然であるし、組織によって動員され話を聞くというよりも妨害目的のような相手だったから、などと言われる。しかしこれにも反論がある。①居合わせた人のいくつかの証言によれば、確かに組織で来ていると思われる者もいたがそうでない者も少なからずいた。ゼッケンやプラカードはもとより、ある程度の野次も選挙ではふつうのことなのに、首相はなにか犯罪者集団を「罵る」ような口調で違和感を与えた。②「こんな人たち」は単独ではひどく悪い言葉とは言えない。ただ首相の日頃の態度が、メディアを選別してあるものは優遇する一方で特定のものを排除したり罵倒したり、国会でも野党の質問にははぐらかしや逃げや逆襲で応じることが多く、反対者への敬意欠如が指摘されるなかで、反発を招いた。➂後に同じ場所での街頭演説では、あらかじめロープを張り、事前に許された者しか近づけさせない態勢をしいたので、①②の批判を裏付けることになった。

上の小池発言・安倍発言が反発を招いたのは、こうした直接的理由から理解できる。また近頃の政治家に、ことさらに「敵」をつくりあげてそれを「たたく」演出で支持を集めたり、社会の分断を助長する政策や態度をとったりする好ましからぬ傾向があるという広い背景からも、この反発は理解できる。しかしそのなかに感じられた雰囲気や、反発が私の想定以上であったことから、危惧も覚える。政治で特定の集団を排除したり政敵に負けられないと宣したりすること自体への、反発がありはしないかという危惧である。もともと日本人には「和」への過剰な願望がある。ところが新自由主義により、「勝ち組」「負け組」の分断を当然視され「競争」が礼賛されるようになった。こうした「空気」へのいわば機械的反発から、逆の極への揺り戻しとして、排除や対立への過剰な非難も生まれているように感じるのである。

政治の本質は対立である。が、「みんなの幸せ」のために働くという政治家や、プレイヤー全体の利得が最大になる最適解を求めているという「理論家」がおり、つまり彼等は、対立を言い立てるのは悪い思想にかぶれたか頭が悪いかの不平分子であると陰に陽に宣伝している。こうした宣伝こそ、実際の対立を覆い隠し、現在の体制、つまりいま強い者の支配を正当化してそれに服従させる悪質なデマであると明らかにすることが、まさに「進歩的知識人」の役割ではなかったか。民主主義とは「対立をなくす」こと、みんな仲良くすることではない。闘い(と支配)の一つのかたちであり、対立をできる限り暴力によらないで解決する仕組みである。けんかしないことでなく、けんかの仕方を学ぶことである。小池氏や安倍氏などのこうした言動を批判しているのは、「リベラル」寄りの人々が多そうである。しかし対立を言い立てるな、というのは本来保守派の態度である(この意味で安倍氏に眉をひそめる自称「正統派保守」の論客もいるようだ)。宗教や国籍でくくった人々をひとまとめに「敵」とするヘイト行為などはもとより非難されるべきである。しかしけんか一般を非とするようになってしまうと、かつてのように、「一億一心」や「八紘一宇」のような、異を唱えさせない政治への動きにもっていかれてしまうのではなかろうか。



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2019/03/21 05:26 2019/03/21 05:26
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