床屋道話52 反動の心理
二言居士
トランプ現象には驚愕した。まさか当選しないだろうと思っていた。当選してもすぐに破綻するだろうとも思った。しかしまがりなりにも一期を終えた。とりあえずの一段落である。ただし僅差での敗北であり、その後も人気がどっと落ちたわけではないのでまだ終わったわけではない。その意味でも少し考えを記しておこう。
内容と形式の二面から考えられる。後者は、あからさまな大量の嘘や陰謀論に多くの人がひきつけられるようになったことである。重要な問題だがここでは取り扱わない。
前者は政策内容のことである。はじめから前面に出たのは移民問題だった。移民が米国経済にとって良いか悪いかは、純経済的には決め難い。無難に言えば、プラスになっている人々もマイナスになっている人々もいる。トランプ派は後者のほうが多いのだろうが、では移民を排除すればよくなるかと言えばそう単純ではあるまい。移民によって米国経済全体が支えられたり伸びたりしている面があり、間接的にはそれが反対派にもプラスになり得るからだ。経済的利害を離れて言えば、移民を受け入れるかどうかは主権国家の自由とも言えよう。しかしトランプ政権や支持者で問題なのは、それが利害以上に外国人嫌いという心理に、もっと言えば差別意識に結びついていることである。
人種差別は米国の宿痾ではある。しかしオバマ政権の誕生で克服の道も進みつつあると思われたのにである。いやむしろだからこそなのであろう。この道が喜ぶべき「進歩」でなく「古き良き」アメリカを滅ぼすものと、トランプ派は観念しているのだろう。外国や異教徒や移民や、またそれらに「寛容」なリベラル派やインテリは、米国白人の優越に敵対するものとして否定されるのだろう。
いま世界には大きな革命が進行している。Me too運動などに表れている、男女平等への動きである。しかし渦中にあっても嵐に気づいていない者もいる。二階氏流の言い方をすれば「一過性の」現象と思っている者や、あるいは騒ぐのは売名目的だとくさす者もいる。また外に出ればそれくらいはつきもので、昔はそんなに騒がなかったとあきれる者もいる。事実問題としてはその通りなのだが、それに黙らなくなったこと、また「わきまえて」黙る(泣き寝入りする)のが正しいことでないと思われてきたことが、革命なのだ。旧体制で優越や利得を持った者のなかには、そこでこれを進歩ととらえず「正統的秩序」への攻撃、少なくとも「一部の過激な現象」や「行き過ぎ」ととらえたがる者が出ている。今の日本の若者など「女子のほうが元気がある」というのはわからなくはないが、本気で「いまは男のほうが差別されている」と考えている者もいる。根拠を聞くと、通勤時の「女性専用車両」のような例しか出ない。通勤電車における被害ということでどれだけ性差があるかという「全体」が見えず、わずかな是正措置を機械的平等という点から問題視している。米国で有色人種がいままでどれだけ差別されてきたかという重みをはからずに、是正措置を逆差別と非難する白人と同様である。今までの優位や利得を失うことへの抵抗が反動を生んでいる。


現在は3代目ご主人の泉野さんと奥さん、2代目のお父さんの3人で営んでいます。