床屋道話53 文句は直接言え

 

 はじめに強く感じさせられたのはもう十数年前のことになろうか。北海道旅行のときである。小生は一人旅が多いのだが、そのときは、広い北海道で老母とともになので、有名旅行会社のツアーに加わった。終わりに質問紙を渡され、いろいろな項目についての評価を求められた。どこがよかったかとか、この宿はどうだったかとかの質問はわかる。今後の企画の参考になろう。ひっかかったのは添乗員に対する評価である。近くにいるのに、わざわざ紙に書かせるのか。なぜそういうことをやらせるのだろう。直接お礼なり苦情なりを言ってやれば、本人の参考になるではないか。

 まず考えられるのは、本人でなく本社の上司なり人事課なりの参考にするということである。なんの参考にか。好意的に推測すれば、教育のためであろう。だがそれは本人の経験がおのずから一番の教育なのではないか。客に喜ばれたり怒られたりすることでうまくなっていくのではないか。察しの悪い、または向上心のない者もいると言われようか。だがそれは上司なり教育係なりが彼(女)に接するなかでわかるべきことではあるまいか。とてもよいまたはとても悪い場合はアンケートをとらなくても利用者が上に声を届けもする。アンケートに頼るのは、「上」が、このように若い社員に丁寧に気を配る能力を失って、てっとりばやい数値や断片的な言葉で彼(女)を「把握」した気になっていることではあるまいか。好意的でない推測では、そのような「教育的」観点でなく、「考課」の材料にするためではあるまいか。あるいはまた、その「考課」により給与や昇進に差をつけられることが「インセンティヴ」になって本人を「育てる」ことになるという、新自由主義的な野蛮な人間観・経営論によるものかもしれない。

 そのような質問紙を自ら配らなければならない添乗員はどういう気持ちなのだろうか。配らせるほうでは、そんなことに気を使わないのか。しかし客の気持ちに寄り添おうというなら、まずは自社の社員の気持ちを考えたらどうなのか。それともいまは配るほうでもこういうものだと「自然に」うけとって疑問も反感も抱かないのか。

擁護論として、客としては直接よりも表明しやすい、というものがあるかもしれない。そしてそれゆえ会社としてそうすることはよい、という擁護論も。小生はそうは思わない。まずできる限りは直接言うのが人間関係として望ましいと考える。時には直接言いづらい、またはそれだけでは済まない苦情などもあることは認める。しかしそれを「上」に言うことが禁じられているわけではない。小生も正当な告発は卑怯な「チクリ」でなく重要な権利行使であることを述べた(第20回「密告の倫理」)。抗議や批判が直接言いづらいのは自然ではある。問題なのは、「相手が傷つくかもしれないから」でなく、「自分が反撃されるかもしれないから」のときである。だからこそ、その恐れがないかたちで行うのは卑怯である。

添付画像
今までの優位や利得を失うことへの抵抗が反動を生んでいる。

「在日特権」は、そんなものはないと身近に知っている関西人はあまり問題にしないが、ファッショ的団体やネトウヨ情報こそ真実だと思っているような者はまにうけてしまう。これにも、「在日」がどれほど不当な扱いや差別を受けてきたかという「全体」をみずに、歴史的事情による当然の措置まで彼等の不当な利得のようにみて、「自分たち」が苦労しているのに、あるいは自分たちのものを不正に奪って、「奴等」が支配している、あるいはそうなろうとたくらんでいる、と思いたがる心理がある。Q-anonの陰謀論を信じるトランプ派ほどでないにしても、わが国でも、在特会やN国党と言ったファッショ的団体が、各種選挙でそれなりの得票を得たり議員を出したりしていることは、かなり危ない状況である。


添付画像




◆画像をクリックして「Amazon通販」より仲島先生の本が購入できます。 ↓
通常配送料無料



通常配送料無料



通常配送料無料


通常配送料無料


両性平等論 (叢書・ウニベルシタス)

フランソワ・プーラン ド・ラ・バール, de la Barre,Francois Poulain
通常配送料無料


通常配送料無料
◆画像をクリックして「Amazon通販」より仲島先生の本が購入できます。 ↓
通常配送料無料



通常配送料無料



通常配送料無料


通常配送料無料


両性平等論 (叢書・ウニベルシタス)

フランソワ・プーラン ド・ラ・バール, de la Barre,Francois Poulain
通常配送料無料


通常配送料無料
2021/09/14 10:30 2021/09/14 10:30
この記事にはトラックバックの転送ができません。
YOUR COMMENT IS THE CRITICAL SUCCESS FACTOR FOR THE QUALITY OF BLOG POST