床屋道話(その4:人生に必要なすべてはア太郎から学んだ)
という題はまあ言い過ぎではある。が「もーれつア太郎」は小生の人生観形成におおいに与ったものの一つというのは、けっして過言ではない。言うまでもなく、今年死んだ赤塚不二夫のギャグ漫画のことだ。
追悼記事などからみると、どうやら多くの人にとっての代表作というと「元祖天才バカボン」、これについで「おそ松くん」、女性だけでは「秘密のアッコちゃん」となり、「ア太郎」はその後塵を拝するようだ。しかし小生にとってはまずこれをあげることになろう。
他の作品同様ナンセンス・ギャグが中心ではあるが、倫理性が最も強い。(「巨人の星」と並んで、そして勿論、「学としての倫理学」などに先立って)「いかに生きるか」を洗脳してくれちゃったのは、八百×やそのまわりの珍妙な人々、生類たちであったろう。
ここでは「ニャロメの怒りとド根性」と題された挿話だけを紹介しよう(曙出版、第十巻による)。ニャロメ猫はきょうもお下品ないたずらで目玉つながりのケーカンを怒らせている。がその後PTA会長がこどもをひき逃げするのを目撃し、口封じに金をつかませられる。しかし先ほどのケーカンに告発するが、無論信じられない。ア太郎たちに訴えるが「またその手にゃのらないよ!」とあしらわれる。もらった金を与えることで無理矢理デコッ八を会長宅に同行させるが、この名士の偽善ぶりに勝てるはずもない。信じてもらうために愚考を演じたり、ついにハンストのパフォーマンスを行うが、ココロのボスのすき焼き攻撃に躓いてしまう。これは笑かそうとする作者のギャグ精神の発露とだけで流しちゃなるめえ。ペテロでさえ三度主を否み激しく嗚咽したことによって、どれだけの真実味と説得力とを彼の話に与えたであろうか。怪我した少年からも信じられなかったニャロメだが、彼はあきらめなかった。最後の頁は、彼の不屈の闘いを伝える。それを目撃するデコッ八。最後のコマ(79頁)は、彼の心を言葉なしに表現することで、思想的な深さと技術上の高さとを結び付けている。(安っぽい作者なら、せめて「がーん!」とでも入れてしまうところだ。)
真実を証する生がどんな力を持ち得るか、私達はデコッ八とともに、心に刻むことになろう。
そして私は確かにニャロメである。PTA会長さんと闘うには、最後の戦法としてこの覚悟がいるのではないか。
当時、ニャロメは「反体制ネコ」などと言われ、ゲバッていた学生らのアイドルであったとも言う。彼等はその後どうなったのか。すき焼きを食わされてヒヨッてしまったのか?
無断引用で恐縮ながら、ア太郎の主題歌を詠じて赤塚先生を追悼しよう。
“こらえて生きるも男なら、売られた喧嘩を買うのも男/見せてやりたい肝っ玉/がん!と一発しびれる啖呵/花のア太郎江戸っ子気質”合掌。
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仲島 陽一【著】 創風社 (2006/12/15 出版)
291p / 19cm / B6判 ISBN: 9784883521227 NDC分類: 141.26 価格: ¥2,100 (税込)
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入門政治学 ― 政治の思想・理論・実態
仲島 陽一【著】 東信堂 (2010/04 出版)
268p / 19cm / B6判 ISBN: 9784887139893 NDC分類: 311 価格: ¥2,415 (税込) | |