「文ちゃんの浦安残日録」 (Ⅰ―8)
2011年4月2日(土)
東日本大震災の痛ましい報道がつづく中で、上野動物園のパンダ公開が報じられた。
このジャイアントパンダのペアは、中国四川省から三十時間かけて移動し二月二十一日深夜に上野に着き、三月下旬に公開される予定だったが、東日本大地震が起こって延期されていたのだ。
四川省大地震を体験していたオス・リーリー(力力)とメス・シンシン(真真)も、ビックリしたことだろう。中国名は比力(ビーリー)と仙女(シィエンニュ)だった
五歳の二頭は、東京都内が震度5強で揺れたとき、リーリーの方は落ち着かない様子でパンダ舎を歩き回ったが、現在はそろって元気だという。
三年前の四川省大地震のころに死んだリンリン以来の“上野のパンダ”を見ようと、開園前から二千数百人の行列ができたので予定より早く開場。来園者たちは、ペアの
愛らしさに歓声をあげながら、写真を撮った。
被災者の入園は十日まで無料。都内の長女宅に避難している福島市の老女は、「余震がひどくて眠れずに東京に避難したが、パンダを見て、ふさいでいた気持が和みました」。
リンリンの後継を求めてきたパンダファンの熱意に、石原都知事は、「毎年95万ドル(約八千万円)もの保護協力金を中国に払ってまでしなくちゃならんことなのかネー」と嘯いていた。オリンピック東京再誘致の外国行脚の大名旅行を揶揄された氏の言である。
十日の東京都知事選挙で、大地震発生の“国難”に身命を賭して4選出馬を決意した結果はどう出るか。T新聞社開設「松本文郎のブログ」の編集担当森下女史がオーナー
のカウンタースナックで、常連のⅠさんと都知事選候補者の品定めをしたが、石原知事だけは願い下げだよと言うと、会社経営者で知事とは昵懇の彼は、「石原の人間性は好きではないが、彼のほかに都知事が務まる候補者がいますか?」と切り返えされた。そう言われて返答に窮したが、なんとも情けない政治実力者不在ではないか。東京都の選挙民も困惑していることだろう。
ともあれ、小宮輝之園長は、「被災した方々が、パンダを見て少しでも癒されるのなら」とインタビューで語った。
中国が主張する日本軍による虐殺事件の内容を頑なに否定し、中国嫌いを公言してきた石原知事が4選されたとき、再編目前の政界にどんな影響力を持とうとしているのか、福島第一原発の事故対応と同様、予断を許さない。
被災者を癒すといえば、避難所の学校体育館で、中学生のブラバンやNHK全国音楽コンクールに被災で出れなかったコーラス部員らの演奏を聴いた人たちが涙し、元気が出たと話すシーンをテレビで見た。
折から、恒例の上野公園の夜桜見物の自粛や、東北地方のお祭り開催への賛否両論が喧しい。被災者自身が花見やお祭りに参加して元気を取り戻すのは大いに結構だが、日本中が一つになって大震災の苦境に立ち向うには、被災地以外での自粛や不謹慎にならない配意が大切だ。
国内外のミュージシャン・アーティストによる遠隔の地の義捐金集めのイベントが、被災者への癒しになるのはうれしい。自分たちのファンだけでなく、人間社会の連帯の尊さに目を啓いた彼らの新しい活動展開を期待したい。