「文ちゃんの浦安残日録」 (Ⅰ―11)
Tさんから久しぶりの封書が届いた。Tさんは、日本建築学会樂友会男声合唱団の名代表幹事だ。団長名の文書で、創立25年記念演奏会への参加のお誘い。20周年でも誘われ、メインプログラムの『水のいのち』に惹かれて初参加した。そのときの勧誘は、元職場の先輩で団員のIさんからで、一年間、田町駅に近い学会本部の建築会館ホールに通い、初めて出会った先輩建築家のみなさんと楽しく練習し、知遇を得た。
特別参加を機に入団を勧められたが、古希を越えた身には、浦安男声合唱団で精一杯だったのでお断りした。
その後は、「東京都シルバー男声合唱コンクール」のための合宿や出場(「松本文郎のブログ」に紀行画文掲載)、毎年秋の学友会音楽会のご招待、わが合唱団の定期演奏会へのご来聴などで交流を深めてきた。
今回は、“オールドボーイ”の合唱定番曲『沙羅』全曲と『月光とピエロ』から3曲
のほか、オペラ合唱2曲のプログラム。 好きな曲ばかりで参加しないわけにゆかない。
指揮者Fさんの提案だろうが、風景や情景が目に浮かぶ詩曲の選出。建築家がみんな絵が上手とは限らないが、ヨーロッパ画行展覧会の作品群はすばらしかった。
清水重道作詩、信時 潔作曲の名曲『沙羅』は、2000年の浦安男声合唱団第2回海外公演の国立台南師範学院雅音楼の第一ステージで唄い、満席の聴衆の喝采を浴びた。
8つの小曲からなる合唱組曲で、「丹澤」「沙羅」の卓越した自然描写、「あづまやの」「占ふと」の女心の情緒纏綿、終曲「ゆめ」の諦観を感じさせる静寂と孤独な安らぎの漂う詩曲のすばらしさは、筆舌に尽くしがたい。日々、描き/唄い/詩文を書いて多忙を極める喜寿の私に、「お歳を考えなさいネ!」といつも宣うお千代に、「30周年はムリだから、やりなさいヨ」と背中を押された。
Fさんに電話すると喜んでくださり、間もなく、譜面と参考演奏音源のCDが届いた。
翌朝、MDに移した音源と一緒に散歩に出た。久しぶりに聴く『沙羅』の一つひとつの歌を口づさみながら、見明川の遊歩道から「ふれあいの森公園」へゆっくり歩いた。
トップテナー・パートの高音部もまだ、それほどキツクはないようでホッとする。
遊歩道の並木はすっかり葉桜となり、伝平橋から稚鮎を釣り上げる人の数も増えた。
公園の木々の彩り豊かな新緑がさわやかな朝の風にゆれている。気持のいい季節だ。
「花まつり」の日から三日通い、公園の大芝生から満開の桜並木を描いた『被災地浦安の春』と題した20号の絵は、日比谷彩友会の春季絵画研究会での講師深澤孝哉先生に、過分のお言葉を戴いた。6月の「みなづき会展」に出そうかと思案している。
ようやく平静に戻った浦安で美しい花々・新緑を愛でていながら、大震災の遺体捜索と被災者の苦渋に満ちた生活や、中東革命のうねりの中の強権的独裁者による民衆虐殺の報道に、胸がふさがる。
菅政権が立ち上げた首相諮問機関「復興構想会議」は、建築家安藤忠雄を議長代理の一人にしたり、梅原 猛、玄侑宗久、内館牧子など親しみを感じる顔ぶれがまじるが、
官僚出身者がいないので、青写真の実行段階で中央省庁がどう出るかなどで、はやくも
場外では百家争鳴の態だ。安藤さんの阪神淡路大震災後の地道な活動に好感をもつ者として、リーマンショック後の経済復興構想と合わせた実効性のある提案を期待したい。