「文ちゃんの浦安残日録」 (Ⅰ―13)
2011年4月2ⅹ日(ⅹ)
世界が見守る福島原発事故沈静化の行方が見究められない緊迫状況で、菅政権打倒の政局化を画策する政治家がいるとは、実に情けないことだ。“挙国一致”ば戦時中を思い出させる言葉で敬遠したいが、政治家と国民が総力を挙げて対処する事態には違いない。
しかも、東日本大地震が襲った日本は、歴史的政権交代をしたものの、迷走する政治と経済不振で社会全体に閉塞感が充満しているのだ。
年金制度への不信がきっかけの社会保障・福祉政策の見直し、リーマンショック以降の世界経済不況のなかの経済・財政構造改革、外交・安全保障の自立化政策など諸課題を抱えたままの「3・11」だったことを忘れてはならない。
私たちは今、大震災と原発事故からの復旧と日本の国全体の復興を重ねて構想すべき地点にいる。京大建築学科の恩師西山卯三先生は、人間居住環境・地域計画の学術調査・建築都市計画学を、民衆の立場から推し進めた世界的権威だった。先生が安藤忠雄さんの座につかれたらどんな提言をされるかと想っても、鬼籍に入られて久しい。
卒業同期には、大学教師となって先生の学術的所産を発展的に受け継いだ学友数人がいる。浦安被災で電話やメールをくれたそれらの学友らに、阪神淡路大震災の復興計画に関った際のノウハウを東日本の再生に生かせないかと聞くと、都市と農漁村の違いに加えて原発事故が複合している事態にすぐには歯が立たないと言う。そうかもしれない。
喜寿とはいえ、専門学術的蓄積と複雑系課題のソリューション総合能力は、若い学者
に勝るとも劣らないのではないか。被災者にとっては不幸の極致だが、研究者にとっては千年に一度といわれる絶好のチャンスではないか。政府お抱えの学者より自在な立場で、西山卯三流の在野精神を発揮し、最後(?)のひと働きをしてみてはどうか。
折りから、朝日新聞社が設立した「ニッポン前へ委員会」が、あすの日本を構想する提言論文を募集している。締切りの5月10日まで執筆の日数はわずかだが、ダメもとで、8千字の拙論を書いてみるか。
土木工学分野でも同種の提言論文を公募しているらしく、一回り年下の次弟は、早々と「三陸海岸の『災害ゼロ都市』への復興再生」」と題した論文で応募したという。大手の海洋・河川土木建設会社のあと、二つ目の土木技術コンサルタントに勤めているが、海外勤務の経験もある彼にとって、またとない活躍の好機であろう。ガンバレ!!
彼によると、海中に設けた高さ60米の津波よけコンクリート壁があっけなく押し倒されたのは、自然力を甘くみた設計思想の当然の帰結で、彼の復興計画コンセプトの第一番目に、「自然力に抵抗することなく受け入れて、生命・財産を守る」と書いている。
自然の力を腕ずくでねじ伏せる考えは、西洋近代の科学技術思想と無縁ではないが、
しっかりした自然観(宇宙観)からは出てこないものだ。地震・津波・台風・洪水などの来襲・被災が常態化しているアジアでは、自然と親和性のある居住環境構築がなされてきた。巨大竜巻や大洪水に見舞われているアメリカ大陸ではどうであろうか。
日本の復興・再生構想では、電力の生産・消費の大変革への提言がメダマになろう。
原子力発電依存から早期に離脱するか、段階的削減と自然エネルギーへの転換の道筋を選ぶかに分かれる論議を、世界中の人びとと共に深めて行こう。
地球全生命との持続的共生を科学技術の光と影の中で探求するのは、人類の課題だ。