「文ちゃんの浦安残日録」 (Ⅰ―15)
2011年5月3日(火)
オバマ大統領が、「やった!ビンラディンを仕留めたぞ!」と叫んだとされるのは、米海軍特殊部隊とCIA軍事部門による急襲作戦の映像をモニタールームで見ていた最中だったという。リベラルで穏やかな人物のイメージをもつ彼も、やはりアメリカ人だナと感じた。9.11同時多発テロの首謀者で、米国の“対テロ戦争”の最大の標的を仕留めた瞬間である。
2001年 のテロ発生の翌10月、国際テロ組織アルカイダのオサマ・ビンラディンを首謀者とみなした米国は、タリバーン政権のアフガニスタンを攻撃。同政権は二ヶ月で崩壊したが、テロの黒幕として世界に知られることになったビンラディンは、アフガン・パキスタン国境の山岳地帯を転々としているらしいと報じられるだけで、多額の懸賞金にもかかわらず、所在は杳としていた。
ブッシュ政権による膨大な戦費と米国兵士の生命をかけた掃討作戦も虚しく、10年
近い年月が経過した。アフガンからの米軍撤退を公約に当選したオバマ大統領は、二期目の選挙を目前にして、ビンラディン容疑者の捕捉に懸命だったようだ。 「やった!」に、その強い想いを感じる。
オバマ大統領の命を受けていたCIAが、パキスタン国内の隠れ家の情報を入手したのは昨年8月。今年初めには特定したとされる。掃討の急襲作戦がパキスタン政府に知らされずに実行されたとして、両国の間に不穏な空気があるが、オバマ大統領声明には、「パキスタン政府の協力の下に、作戦を遂行した」とある。(5/3朝日朝刊)武器を持たないビンラディンを捕捉せず殺害したこと、遺体を速やかに水葬に付したこと、遺体写真の未公開などについて、ブッシュ政権より透明性を約束したオバマ政権に対し、AP通信が情報公開を要求している。
イラクのフセイン前大統領が、捕捉されて裁判にかけられ、死刑になったのに比べて
乱暴なやり口と思われるが、軍事評論家によると、テロリストは“違法戦闘員”だから、“武器を持たない者を殺してはならない” とするジュネーブ条約45条違反ではないし、9.11テロのような多数の犠牲を再び出さない予防戦争では、隠れ家のあるパキスタンに無断で侵入しても正当性があるという。なんとも物騒な論理を開陳していた。
“予防戦争”なる概念が、国際的に認められているかどうか知らないが、米国のように
世界最強の国家ならば、他国に対してなんでもできることになりはしないか。
この作戦は、パキスタン政府の暗黙の了解の下に行われたとみるのが妥当で、米国に対する抗議は、一枚岩でない軍部と折合いがよくないザルダリー大統領のゼスチャーと思われても仕方ないだろう。
それよりなにより、オバマ大統領は、果たして心底、快哉を叫んだのだろうか。
ビンランディン殺害で、9.11の屈辱への報復を誓った米国民の期待に応えたとしても、「憎悪は憎悪を生み、報復しても愛する人たちは生き返らない。軍事的な反撃は新たなテロを誘発するだけではないか」と語った遺族たちがいることを忘れてはならない。
ときあたかも、中東にうねる民族革命の波は、アルカイダの暴力を是認しない若者ら
が推進力になっている。“テロへの報復”と“さらなるテロ”の悪循環を絶ってこそが、米国と世界の混迷に「チェンジ」を叫んだオバマ大統領の真骨頂ではなかろうか。