ピアニスト洪恵貞さん
2012年6月3日(日)
前回、前立腺がん検査の顛末を書いてから、はやくも4か月がたってしまった。この
残日録の執筆遅滞は、体調ではなく諸事多忙のせいだが、まめに書くように努めたい。
MRI画像に白く写っていた前立腺・リンパ・骨盤のがん判定に、3回目の生検を勧めた担当医師に、「生検でがんと分かっても、享受している楽しい生活の質を落さずに生ききりたいので、薬治療法もなにもやるつもりはありません。PSAの変化だけは知りたいので、血液検査はつづけてください」と告げた私は、元気に日々を過ごしている。
2月半ばと5月末の2度の検査では、MRI検査を受けるきっかけとなった30.36から、26.70、 26.34と減少している。こうした増減は、この7年間で2、3度はあったが、減ったり横ばいなのは、活性化した「がんキラーT細胞」たちがガンバッテくれているからだろうか。
30.36の数値でMRIと骨シンチを勧めた医師にPSAの値の変化をどうみているかと尋ねると、「増減はありますからネ」だけで、「今度はCTをやってみましょうか」だ。
私はムッとして、「生検でがんと判定されても、なにもしてもらいたくないし、CTによる放射線内部被ばくを、受けたくないのです」と応え、実に検査熱心な医師は、「数値が上がってきたら、またご相談しましょうヨ」と言った。
喜寿老人は、絵画(描き)/音楽(唄い)/文芸(詩文を書く)で元気にしていれば、検査漬けや抗がん剤の副作用で体調を壊さずに、天寿をまっとうできると信じている。
今日も、すばらしいピアノ演奏を聴かせていただき、「がんキラー細胞」たちが活発になるのを実感したので、書きとめておきたい。
このチャリティー・ピアノコンサートは、私のブログの編集者・森下女史である。
「脱北者を支援する会」主催、「統一日報の」後援で、猿楽町の在日本韓国YMCA・
ホールで開催された。洪恵貞さんは、アメリカを中心に活躍しているピアニストで、
ミズーリ州立大教授で同州音楽教育者協会の副会長を務め、後進を指導している女性。
演奏曲目はハイドン・ソナタ(変イ長調)/ シューマン・幻想小曲集12/ リスト・スペイン狂詩曲で、魅力的で親しみのあるピアノ曲ばかり。平土間の前方中央に据えたセミグランドピアノを囲むように椅子を並べたサロンコンサートは、森下さんの進行で始まった。
洪恵貞さんがおもむろにハイドンのソナタを弾きだしてまもなく、このピアニストがいかに優れた演奏家であるかが感じとれた。ピアニストにいちばん近い席に座った妻のお千代も、鍵盤をかろやかに往き来し跳躍する指先に熱いまなざしを注いでいる。
10日ほど前から気管支炎を患っていた私は、いつ咳きこむかを心配しながら席に着いたが、3人の作曲家それぞれの楽想を見事に弾き分けた熱演にすっかり心を奪われて、咳は一つも出さずにすみ、スペイン狂詩曲が終わった瞬間、「ヴラ ヴァ!」を叫んだ。
控え目にみえるお人柄の内面には、豊かな音楽性と凛とした精神性が秘められていて、ほんとうに感動的なコンサートだった。惜しむらくは、かなり古びたピアノが、狂詩曲の激しい鍵盤の連打に耐えきれないような悲鳴をあげていたことだ。
もっと多くの聴衆を集めた東京文化会館小ホールで、立派なグランドピアノだったら
どんなによかったかとの強い想いと共に、ホールをあとにした。 (続く)