ピアニスト宮谷理香さんのコンサート             
                                                          2012年8月2日(木

 

 後援会の案内で、新CD発売記念のピアノ・サロン・コンサート(731日・ヤマハ銀座コンサートサロン)を拝聴した。

 80人限定でのよい席を得たくて、世界のブランド店がひしめく銀座で猛暑の余熱がゆらめく歩道を、妻のお千代とわき目もふらずに歩いた。

 ヤマハに着くと、クウエートで家族共々に仕事した戦友の一人橋本孝徳夫妻に会う。二人とは、BHNテレコム支援協議会・チャリティーコンサート出演の理香さんが、NTTフィルハーモニー管弦楽団とショパンのピアノ協奏曲を共演した昨春以来の再会だ。

ホールのロビーに、演奏曲目を二分するドビュッシーとショパンの自筆楽譜のコピーの展示がある。ドビュッシーがペン先を踊らせた筆致の美しさに感嘆し、ショパンが推敲で抹消した箇所の生々しさに見入る。

 第1曲目の武満 徹『雨の樹 素描』の数小節の音を聴いた途端に、鳥肌が立った。

まるで、“水琴窟”と化したコンサートサロンで、次々に落ちてくる水滴のえも言えぬ神秘さに身も心も包まれたのだ。なんというファンタスティックな音の連鎖であろうか。“魂の演奏”というほかに言葉がみつからない。

 理香さんの手短な紹介を残日録(31)「東 誠三とリスト」の末尾に書いたように、ウイットとユーモアに富んだエッセイやMCの見事さには、唯々、感心するばかり。

 東 誠三さん(中学同級の友人陽子さんの子息)のサロンコンサートでも同じだが、理香さんが語る演奏曲目の楽想やエピソードのMCには、親しさと楽しさがいっぱいだ。

『雨の樹 素描』の作曲が、大江健三郎著『レイン・ツリー』からインスピレーションを受けたこと、ドビュッシーに『金色の魚』を作曲させた「金色の魚が描かれた蒔絵」に、ブリジストン美術館の「ドビュッシー展」で対面したことなどを聞きながら、その“オンリーワン”の演奏に、並外れた読書や美術鑑賞で育まれた感性と知性が満ち溢れているのに感じ入った。

 ドビュッシー『水の反映』では“光の妖精”となって水と戯れながら飛びまわり、武満の曲では“水の精”となって「水琴窟」で遊ぶ、理香さんの繊細・大胆で自在な演奏に揺蕩っていた。

二つの“水の曲”の楽想と音色の差異が鮮やかに弾き分けられていて、いまは亡き武満 徹と吉田秀和が理香さんの『雨の樹 素描』を聴かれたらどんなことを語られるだろうと、想像したくなる見事な演奏だった。

前半のステージは、『雨の樹 素描』とドビュッシーの5曲で、後半は、ショパンの5曲だった。

いずれもすばらしい演奏だったが、それぞれのステージ最後の『喜びの島』と『幻想ポロネーズ』

は、まさに圧巻だった。アンコールに応じた3曲の熱い演奏も、聴衆のハートにしかと届いた。、

敬愛するショパンと対話するように『幻想ポロネーズ』を弾く表情や体の動きに眼を凝らす私に、理香さんにはスラブの血が流れていると幻想するなにかが感じられた。

先のチャリティーコンサートの印象を書き送って恵与された『理香りんのおじゃまします!』

には、ザルツブルグのセミナーで彼女の人生を変える出逢いをしたヤシンスキ先生に、「ショパンコンクールに通用するエチュードです」と言われたと書かれているのも、日本人離れしたスラブ的音楽性があったからではなかろうか。

 演奏会後のロビーで求めた新CDRika Plays FantasiesRain Tree(樹)』に、“お千代

さんと文ちゃんへ”のサインを戴いた。ヤシンスキ先生との出逢い3年後、ショパンコンクール5位の栄冠に輝いた理香さんのこの新CDを、ぜひ、求めて聴かれるようにお勧めしたい。




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2012/08/06 12:14 2012/08/06 12:14
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