憲法記念日に  
                                            2013年5月3日(金)

                                松 本 文 郎

 

憲法改正をめぐる居丈高な安倍首相の発言は、太平洋戦争で尊い命を失った軍人や一般国民と戦禍に巻き込まれたアジア諸国の人びとへの反省のカケラもないことに、憤りを感じる。

「国民の生命安全を守る」ために、“アメリカから押し付けられた憲法9条を改正する”というが、米国の無差別爆撃によって都市の大部分が灰塵に帰し、310万人もの日本人の命を失い、広島・長崎への原爆投下を受けて敗れた無謀な戦争の歴史を、どのように認識しているのだろうか。

 米国から輸入していた石油(国内消費量の80%)を停められ、唐突な奇襲攻撃で始めた太平洋戦争に至る過程には、日清・日露戦争、満州事変、日中戦争、日独伊三国同盟、国際連盟脱退など一連の軍国主義的な国策が、全国民を総力戦に巻き込み、無残に破たんした歴史がある。

日本国憲法が占領下の発布だったとしても、国民の生命安全と財産に途方もない犠牲を強いた軍国主義日本に親や子を戦争で奪われた国民が、二度と戦争をしたくないとする“憲法9条”を、新生日本とアジア・世界の平和の礎として護持してきたのである。

“憲法9条”は、戦死・戦没者の尊いいのちと引き換えに国民が手にした、掛け替えのない遺産 なのだ。長く続いた自民党政権が憲法改正をしないできたのも、憲法改正がやりにくいからではなく、保守本流の政治家たちが国民の悲願を尊重しなければ政権維持ができないと認識してきたからにほかならない。

安倍首相は、“戦争を知らない政治家”の一人だが、幼いころに、祖父の岸信介氏から吹き込まれた、“大東亜戦争聖戦論”をひたすら信じてきたと思われるほど、頑迷さを丸出しだ。

安倍首相の祖父は東条英機内閣の商工大臣・軍需次官であり、最初から勝ち目がないとされた戦争に猪突猛進した挙句の無条件降伏の極東国際軍事裁判で、A級戦犯に指名・収監された。

それを知らない若者のなかには、憲法改正で国防軍と徴兵制ができれば日本を守るために命を捧げるという愛国者もあるという。傘寿を迎えた筆者も、3,4年早く生まれていれば特攻志願で、戦争の原因と是非を知らないままに愛国の名の下に戦場に駆り出され、戦争続行が無意味だった敗戦末期に特攻兵として死んで逝った若者の一人であったろう。

幸い、日本復興の一翼を担って平均寿命まで生きてきたが、“憲法9条”を改正して、アジアや世界に日本の軍事国家化を懸念させる事態になれば、英霊たちの尊い犠牲を無にすることになる。

お題目の「国民の生命安全を守る」どころか、忌まわしい戦争の時代のように全国民の生命と平和な暮らしを脅かすことになろうと危惧する。

疎開先の国民小学校5年だった私は、くぐもって不鮮明な天皇のラジオ放送を聴いて、抜けるような青空を見上げた瞬間を忘れたことはない。

憲法25条の草案者森戸辰男は郷里の福山出身。“日本の戦後復興は教育の一新で”と創立した広大付属福山に入った私と一年下の妻は、森戸の建学精神と民主主義と自由の気が溢れる学舎で、戦争で死なずに済んだ若いいのちを、おおいに羽ばたかすことができた。

 肝心な憲法条文はそっちのけで、他国から押し付けられたとか、改正しにくいなどの手続き論(原稿憲法草案には日本人も関わり大正デモクラシーの理念も組み入れられたし、世界主要国の憲法改正はすべて三分の二)は、事実に反した欺瞞でしかない。

 そもそも憲法は、国民が国家統治の権力者を規制するもので、国家が国民を操るためのものではない。拙稿『アラブと私』を長期連載している日本ジャーナリスト会議「広告支部ニュース」5月号の表紙がそれをよく表しているので、ここに転載させていただく。 

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2013/05/03 19:09 2013/05/03 19:09
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