文ちゃんがツブヤク!
「安保法制成立」と日本の行方
2015年10月12日(月)
集団的自衛権を行使できるようにする安全保障関連法が可決・成立した。世論調査では反対が賛成を上回り、全国各地で反対デモ・集会が粘り強く催される中、政府与党は反対を押し切り、強行採決もどきの可決だった。
安倍首相の「国民のみなさんの命と暮らしを守る」を耳にタコができるほど聞かされた国民の内閣支持率は第2次安倍内閣の発足後最低の35%(不支持率は45%)。安保関連法案「反対」は51%(「賛成」は30%)で法制成立後も反対が半数を占めた。
国会での議論が「尽くされていない」は75%、安倍政権が国民の理解を得ようとする努力を「十分にしてこなかった」は74%に上がって、採決の進め方が「よくなかった」は67%で、「よかった」の16%を大きく上回った。
「自由と民主主義の価値観を共有する国々と一緒に手を携えて・・・」を広言してきた安倍晋三首相は、自国民の「自由と民主主義」を踏みにじるやり方で、「憲法違反とされる法制」を我武者羅に成立させた。 日本列島の津々浦々で沸き起こった安保法制反対の国民の切実な声を聴く耳を持たない安倍政権は、一体どこへ向かおうとしているのか。
「安保法制成立」後に発足した第3次安倍内閣の政策の目玉は「一億総活躍社会」の実現だという。この意味曖昧なスローガンを聞いてすぐ脳裏に浮かんだのは、戦争中は耳にタコができるほど聞かされた「進め!一億火の玉だ」「一億玉砕」「一億総特攻」の標語と、敗戦後の「一億総懺悔」だった。
臆面もなく「一億総活躍社会」を連呼する首相は、戦時を生きた人間にとって、「一億○○○・・・」がいかに思い出したくない標語(スローガン)であるか知らないのだろうか。
あの無謀な戦争を「聖戦」(現人神天皇のために死を賭して戦うことを強いられた)と信じ、軍国主義国家の国民抑圧と情報統制の下、「打ちてし止まん鬼畜米英」を唱え、挙国一致で献身をした日本国民。老若男女を挙げての「一億総活躍国家」は、まさに悪夢だった。
アジア諸国を植民地帝国主義で侵略する米・英との「聖戦」に疑問を呈し、反対した「不逞の輩」は特高警察に捕まって獄に繋がれ、拷問で獄死した。
安倍首相の祖父岸信介氏はA級戦犯を免れたものの戦時内閣の閣僚で、ポツダム宣言受託後の東久邇内閣が、敗戦後の国民に対しても「承詔必謹」「国体護持」を説き、天皇制維持と「一億総懺悔」を主張し、国民からの戦争責任追及を免れようとしたことを、決して忘れてはならない。
太平洋戦争開戦の「詔勅」を奉じて「一億総火の玉」となった戦争で310万人の同胞を失い、生き残った国民が直面した敗戦の悲惨と戦後の苦難を、「一億総懺悔」のまやかしですり抜けようとした東久邇内閣は、GHQによる「天皇に対する批判の自由」「戦時中の政治犯釈放」「特高警察の廃止」等の命令が下って、総辞職した。
ノーベル平和賞の候補リストに挙げられた「憲法九条」をGHQの押し付けとして、「大日本帝国憲法」を復古的に懐かしむ人らを安倍首相の代弁者とみる向きがあるそうだが、うがちすぎてはいないか。
もしそうだとすると、先の国連総会における安倍総理大臣の「一般討論演説」は虚偽的な発言になる。
(仮訳抜粋)「議長! 来年私たちは国連発足70年を寿ぎます。国連ができたころ、日本は一面の焦土から再起しました。以来片時として、戦争の悲惨を忘れたことはありません。自国、他国を問わず、無辜の民に惨禍を及ぼした戦争の残虐を憎み、平和への誓いを新たにするところから、日本は戦後の歩みを始めました。国連活動への全面的な献身を自らに課す責務としました。
日本の未来は、既往70年の真っすぐな延長上にあります。不戦の誓いこそは日本国民が世々代々、受け継いでいく、育てていくものです」
安倍首相の支持者の多くは、「憲法九条」や「国連憲章」の内容が「絵に描いたモチ」の理想にすぎず、戦争防止に何ら役に立たないので、憲法を改正して軍備を持つべきとしているが、歴代の保守党政権は国際平和における国連の存在意義と機能を尊重して米国に次ぐ高い国連分担金を拠出してきたが、今回の演説でも、国連憲章の精神を引用し、日本の常任理事国入りを可能にする国連の改革を訴えている。
(仮訳抜粋)「(前略)、70年前、国連は『戦争の惨害から将来の世代を救い』『寛容を実行する』と謳いました。国連もまた、その理想を失ってはならないのです。
議長ならびに各国代表の皆様! まさしくこのような決意をもって、国連が発足70年を祝う明年の選挙で、日本は非常任理事国として再び安全保障理事会に加わりたいと考えています。日本は、80番目の国として国連に列した1956年以来、58年の長きにわたって、国連の大義に自らを捧げて倦むことを知らず、その努力において人後に落ちない国であると確信するものです。節目となるのを機に、我々皆が、志をともにする国々の力をあわせて遂に積年の課題を解き、21世紀の現実に合った姿に国連を改革して、その中で日本は常任理事国となり、ふさわしい役割を担っていきたいと考えています」
演説の冒頭で、「議長! 人類は、今、かってない深刻な危機に直面しています。今こそ我々は、国連の旗の下に結束すべきです。共にこの危機に立ち向かおうではありませんか。日本は、国際社会と手を携えて、大きな責任を果たす決意です」と、高らかに述べたのと呼応する、まともな演説だった。
ただ、安倍首相が演説した総会会場の半分以上が空席だったと報じられたのはザンネンだが、習近平氏も同じだったようだ。オバマ大統領やローマ法王の演説で空席は見当たらず、プーチン大統領では大半は埋まっていたそうだから、そのあたりにも、国連創設時の「志」が低迷している状況が見えているのだろうか。
ところで、国連総会での安倍総理の演説と第3次安倍内閣の政策スローガン「一億総活躍社会の実現」に見え隠れするのは、安倍晋三という人物の独善的ロマンティシズムと誇大妄想的な理想主義ではないかとさえ思われるが、どうだろう。
経済界が首をかしげている600兆円のGDP目標と政府の上目線からの出生率目標などは、中国政府も顔負けの与党独裁的なもので、円安維持のための金融緩和の国債購入と国の借金増大、株価維持のための市場への年金投入などは、アベノミクスの3本の矢の成果が出ない中で、まかり間違えれば国家の財政破綻を招く綱渡りではないか。
国民の耳に聞えのよい政策スローガンを述べ立てる政治手法が、どことなく、あのヒトラーのやり口に通じると感じるのは、筆者の藪にらみだろうか。
第2次安倍内閣が発足した当初の側近や一部の幹部・閣僚の言動から、安倍政権の極右的性格が欧米のマスコミで取り上げられたが、そうした人たちは、自民党総裁安倍晋三氏の理想主義的ロマンティスト(筆者の買いかぶりかもしれないが)の側面に魅せられた、「安倍晋三教」の信者なのだろうか。
常任理事国が持つ拒否権の存在と、2年毎の選挙で選ばれる非常任理事国ではない今の日本の現実にもかかわらず、容易ではない(現状では不可能な)国連改革を無邪気なほど高らかに述べた安倍総理は、どう見ても、したたかなリアリスト政治家とは言えない。
世界を駆けめぐり援助資金をばら撒くのは、国連理事国に選ばれ、いずれは常任理事国と肩を並べる国際政治大国になる工作でもあるのだろうが、なんとも、心もとないかぎりの安倍外交だ。
「志を共にする国々の力をあわせて遂に積年の課題を解き、21世紀の現実に合った姿に国連を改革し、その中で日本は常任理事国となりたい」としても、欧米の経済制裁下のプーチン政権との北方四島返還交渉を進める安倍政権の日本を、米・英・仏や近隣アジア諸国(中・韓を除く)が思惑通りに支持してくれるのかも、極めて覚束ない。
「不戦の誓いこそは日本国民が世々代々、受け継いでいく、育てていくもの」とした演説と、不戦平和主義を遵守した歴代保守党政権の「戦後レジーム」からの脱却を唱えることの矛盾が、安倍首相の中でどのように整合性を保っているのかも不明である。
安倍首相の側近や熱心な支持者らが執拗に主張する戦後の日本政治体制(戦後レジーム)からの脱却には、第1次大戦後の中東で英仏が謀略的に引いた現在の国境を認めない「IS」の恣意的な行動原理の直截的観念性が感じられる。
筆者にとっての「戦後レジーム」は、国民自らが「憲法九条」を主体的に受けとめ遵守した「不戦の平和主義」ではなくて、日本人自らによる「戦争責任」追及を怠り、戦争の惨禍を及ぼしたアジア諸国への明確な謝罪をしなかったこと(村山談話以前)、日米安保条約による在日米軍基地の75%を沖縄の地に固定化して今に至るという「鵺(ぬえ)的政治体制」で、安倍首相の信念とは対極にある。。
敗戦後70年を経ても米軍基地が存続し、なにかと米国追従的に振舞う日本が、他国だけでなく日本の若者(太平洋戦争の開戦・敗戦の真実を知らない)の目に、主権国家ではなく、属国的に見えるようだ。
「戦後レジーム」という概念の多義性の一つ「対米従属的レジーム」こそ、「安保法制反対」で立ち上がった日本の若い世代が脱却をめざそうとするものではないか。
麻生太郎副総理と若い派閥議員があの盛り上がった集会・デモに雑駁に反発したのは、占領軍による押しつけ憲法の改憲をしないで、「戦後レジーム」が保持した「憲法九条」を護ろうとする民意の高まりを見たくなかったからであろう。
対米従属といえば、米国上下院合同の会義場で、今夏の「安保法制成立」実現と日米同盟の更なる強化を高揚した面持ちで宣言した安倍首相に、W・ブッシュ政権の国防長官ラムズフェルトが大満足したと伝えられた。
ウィキペディアによると、
「イラク侵攻時に大義として掲げていた大量破壊兵器が発見されず、アブグレイブ刑務所での囚人虐待事件で米国の道義的威信を大きく損ねたこと、一向に改善されない現地の治安状況等から、イラク従軍兵士と軍制服組の突き上げが激しく、退役将軍たちから『独善的で現場の忠告を度々無視した結果、今のイラクの現状がある』と厳しい指弾を受けたが、2006年の中間選挙で共和党が大敗した記者会見の場で、ブッシュ大統領からラムズフェルトの辞任が発表された」
アフガニスタン侵攻やイラク戦争での指導的役割を強引に果たしたラムズフェルトの評判は、米国民だけでなく制服組からも「歴代最悪の国務長官」とされ、イラク侵攻に反対した仏・独を「古いヨーロッパ」と非難し、強気の行動に終始した人物だ。
両院での演説が、ラムズフェルトの称賛を受けたのは、「戦後レジーム」からの脱却どころか、それを踏襲し続けていることにほかならず、安倍晋三首相の言動をますます訝しく感じないではおれない。
国連の演説では、「IS」や難民について触れ、
「議長! 中東地域は動揺のただ中にあります。特に、国境をまたぎ、独自に「国家」の樹立を宣言するISILの活動を、国家秩序に対する重大な脅威とみなします。いま重要なのは、地域の人道危機へ迅速に対応すると同時に、過激主義が定着するのを阻止することです。その一助として、日本は新たに、5000万ドルの緊急支援を直ちに実施します」
記者会見のシリア難民受け入れの質問への首相の答弁は、
「少子化vsと外国移民受け入れの問題」と勘違いしたような奇異なもので、国内に1100万人、国外へ400万人とされるシリア人難民(人口の半分)の16万人を受け入れるEUに比べ、日本は、60人の申請に対して3人の認可にとどまっている。
演説はさらに、ウクライナ情勢にも触れて、
「議長! ウクライナ情勢を重視する日本は、いち早く3月、最大15億ドルの経済支援を表明して、目下実行中です。東部ウクライナ復興のため、新たな支援も準備しています」
最近(10月9日)の報道は、ウクライナ問題介入に反対のロシア国民がプーチン政権により殺害されているというが、欧米が支援する反アサド勢力への空爆やミサイル攻撃をするプーチン大統領(安倍晋三氏個人と信頼関係が深い?)の来日を計る安倍首相は、込み入った中東・ウクライナ情勢のどんな読み解きで、危うげな綱渡り外交の大風呂敷を広げているのだろうか。
シリア動乱を巡って緊張が増す欧米とロシアだが、こんな物騒な地域での米軍の後方支援を要請された場合、国会決議の歯止め(?)だけで、安倍政権が窮地に立つことはないのだろうか。
(続く)