文ちゃんがツブヤク!

続「安保法制成立」と日本の行方

                           2015年11月12日

               

 この稿の二つ前、『続「安保法制」反対の高まり』の末尾に、次のように書いた。

 「祈念式典に参加した朴槿恵韓国大統領の外交土産とされる日中韓首脳会談開催を、今後の北東アジアの安定に有意なものにできるかどうか、安倍政権の近隣外交の行方を見守りたい」。 
 そして今回のソウル青瓦台での3首脳会談だった。

 帰国した2日夜のBSフジ「プライムニュース」出演の安倍首相の談話(約1時間)を視聴したが、日中韓首脳会談の再定例化(年1回開催)の同意、日中韓自由貿易協定(FTT)の交渉加速などの確認、歴史問題では歴史を直視して未来に向かうことで一致し、これらを盛り込んだ共同宣言を取りまとめて発表したと語った。

 約3年半ぶりの会談は、3カ国外相らも同席して約1時間半行われたが、前半は、ごく少数の顔ぶれで、お互いに忌憚のない主張を述べ合ったという。

 視聴者の関心事である李克強首相と朴槿恵大統領の発言内容について、インタビュアーの反町さんはいつもの調子で率直な質問をぶつけたが、安倍首相は、いつになく慎重な応対で言明を避けた。歴史問題で日本と中韓のスタンスに依然、すれ違いはあったようだが、「3カ国による協力プロセスを正常化させたことは大きな成果だ」と会談開催の意義を強調していた。中韓2首脳の発言内容に触れることを避ける首相の応答に「70年談話」の部分的繰り返しが目立ったが、一定の成果を得たある種のゆとりの表情があった。

 「70年談話」についての安倍陣営内外の毀誉褒貶(各方面への妥協の産物のあいまいさ)の論評はともかく、懸念された中韓の反発を招かなかったことにオバマ大統領もホッとしただろうと、前々稿で書いた。

 ウクライナ・シリア内戦の深刻な情勢悪化のなか、アジアの不安定化を懸念するオバマ大統領の要請もあった3首脳会談だが、「積極的平和主義」を標榜する安倍政権が開催イニシャティブをとらなかったのは、安保法制の国会審議でのぞかせた中国仮想敵国視のスタンスからか、米国のお墨付きなしには動けない従属国的な日本だからなのか。

 ともあれ、「歴代内閣の立場はゆるぎないものとした上で、戦後70年の平和国家としての歩みを基礎に、国際社会の平和と繁栄に一層貢献することを約束した」と説明した安倍首相が、「特定の過去ばかりに焦点を当てる姿勢は生産的でない。日中韓協力の前向きな歴史をさらに紡ぎたい」と訴えたのに対して、朴大統領と李首相から具体的発言はなく、慰安婦問題については、3首脳いずれも言及しなかったという。

 共同記者会見での朴大統領は、「歴史を直視し、未来に向かって進むという精神を土台として、地域の平和と安全を実現するために努力していくことにした」と説明し、李首相は、「皆さまのご存知のような原因があり、3カ国の協力にはいろいろな妨害が発生した」などと語り、歴史認識問題をめぐる日本の対応を暗に批判したと報じられた。

 いろいろな妨害には、石原慎太郎元東京都知事の「尖閣諸島買い上げ発言」と民主党の野田元首相による国有化や安倍首相の靖国参拝等を指すのだろうが、日本側には中国政府による反日的愛国心の高揚や一連の強硬な海洋進出行動への嫌悪・警戒感があった。

 3首脳会談とは別にソウル市内で約1時間会談した日中両首相は、「日中関係は、改善の方向にあり、この勢いをさらに進めていくことが必要」との認識で一致し、外相相互訪問の再開、日中ハイレベル経済対話の来年早期の開催、東シナ海の資源開発協議の再開などでも一致をみた。

 日中関係改善の方向性では、互いに前向きな政策をとる/過去の合意に基づき懸案に対処していく/「協力のパートナーとして互いに脅威とならない」との2008年合意を政策に移す/経済等各分野の交流と協力を強化する、の4点を確認したとしている。

 李首相は会談の冒頭で、「歴史を鏡にして、未来に向かう精神に従って、中日の政治関係に存在する敏感な問題を善処していく必要がある」と述べたとされる。

 報じられた3首脳会談の「共同宣言骨子」は、

・歴史を直視し、未来に向かうとの精神の下、関連する諸課題に適切に対処する。

・日中韓サミットの定期的な開催を再確認。

・日中韓自由貿易協定(FTA)交渉加速に向け、一層努力。

・人的交流の規模を2020年までに3千万人まで に増大させるよう努力。

・国連気候変動会議(COP    21)で、全ての締約 国に適用される合意に向けて協力。

・朝鮮半島における核兵器開発に関連する国連安保理決議等が忠実に実施されるべきとの認識を共有。

である

 3カ国首脳会議は2008年から毎年開かれていたが、2012年12月26日の第2次安倍内閣発足後の日中、日韓関係の悪化に伴い、2012年を最後に中断していた。安倍首相の「戦後レジームからの脱却」宣言や、「極右はしゃぎすぎ内閣」と揶揄された政権取り巻きや女性党役員・閣僚などの言動に日本の右傾化への警戒感が欧米に高まり、特別秘密保護法制定・集団自衛権行使実現を矢継ぎ早に急ぐ政権に対して、中韓のみならずアジア諸国全体に、歴史修正主義的な様相をみせる安倍政権への不信感が広がった。

 ある「談話会」(昭和56年からの月例会は今月で353回。古今東西の歴史・文化・宗教・社会等の森羅万象を話題にワイドレンジな見解・質疑が飛び交うユニークな場)で紹介された太平洋戦争史観の概要を、参考までに転記させていただく。

 

 日本は第2次世界大戦において昭和16年12月にアメリカ、イギリス、オランダに対して開戦したが、はたして日本が加害者で、米、英、蘭の3か国とその植民地支配を被っていたアジア地域が被害者だったといえるのだろうか。

 あの戦争を導いた歴史を公平に検証すれば、アメリカが日本に対し仕掛けた戦争であった。

 今日、日本国民の多くが、先の対米戦争は日本が仕掛けた無謀な戦争だったと信じ込まされている。だが、事実が全く違う。アメリカは日本が真珠湾を攻撃するかなり前から、日本と戦って、日本を屈服させ、日本を無力化することに決定していた。

 日本は12月8日、真珠湾に停泊していたアメリカ太平洋艦隊を奇襲したが、日本政府と軍部はその直前まで日米戦争を回避しようとして真剣に努力していた。日本政府は当然のように、アメリカも日本と同じように平和を望んでおり、緊迫しつつあった両国関係の緩和を望んでいると考えていた。そしてアメリカも日本と同じように、誠があると思い込んでいた。それがとんでもない間違いと気づくのはずっと後のことだった。 

 日本は罠を仕掛けられたのだった。ルーズベルト政権による陰謀にはめられ、断崖絶壁まで追いつめられて、やむにやまれず開戦に踏み切ったのだった。我が国はアメリカが、日本の方からアメリカに戦争を仕掛けてくるように企んでいたのに気付かずに、政府と軍を上げて一人芝居を演じていた。

 ルーズベルト大統領は日露戦争までは日本に好意を抱いていたが、日本がロシアに勝つと、日本を、アメリカがアジア太平洋において持っていたフイリッピン、グアム、ハワイなどの領土や、中国大陸にあるアメリカの権益に対する新たな脅威と見做すようになった。開戦が迫った段階で、ルーズベルト大統領は日米首脳会談を行う前提として日本が提示した合意条件では不十分であり、そこまでいくには原則的な合意が必要であるとして、さまざまな難題をつきつけてきたために、トップ会談はなかなか実現しなかった。ルーズベルト大統領は、日本と戦うことを決めていたので日米交渉が妥結することを望んでいなかった。日本をアヤしていたのだった。

 

 筆者には、この開戦経緯の主張はどこか「ひかれ者の小唄」のように思えるが、欧米列強によるアジア侵出と植民地支配に対抗し、「大東亜共栄圏構想」を錦の御旗に掲げた日本も、中国大陸や東南アジア諸国にとっては遅れてやってきた侵略者であり、軍国主義日本はやはり加害者だと言わざるをえないのではないか。(安倍政権支持者の多くは、“自虐的”戦争史観というが・・・)

 周恩来首相が、「わが中国人民と共に、日本国民もあの戦争の被害者です」と田中角栄首相に言ったとアラブの地で知ったが、アラビア湾の朝の魚市場で出会った中国人男性と固い友好の握手を交わしたのは、1972年だった。

 近隣諸国との近代史観で、朝鮮統治や満州国設立をロシアの南下政策の脅威に対抗したものとして、進出した地に建設したインフラ・都市が、結果的には韓中両国の近代化を扶助したのだからむしろ感謝されてもいいと主張する人たちが少なくない。だが、こうした建設事業が近代化の遅れていた朝鮮半島・中国大陸を支援するためだったとするのは、牽強付会のそしりを免れないのではなかろうか。

 日本の侵略行為の償いでもあった経済援助・協力について、両国の若者たちに伝えて欲しいとの想いもあるが、日本の若者たちに、軍国主義日本が犯した非人道的行為についてちゃんと教えることが先だろう。

 同じ会の最近の例会で筆者が『「安保法制成立」と日本の行方』の話題提供(1時間半で、本誌に二度にわたり寄稿した『「安保法制」反対の高まり』を配布資料とした)に対して、一会員からの「集団的自衛権についての私見」が郵送されたので、先の梗概のように了承を得て転記する。

 安倍首相は色々屁理屈を言って説得に懸命でした。その結果、かなり支持率が下がったと思っていたが、50%を切った程度で意外でした。反対派には、集団的自衛権は認められない人達と、ある程度は認めるがそれには憲法改正が先だと言う人達がいる。

 昭和29年、警察予備隊を防衛庁・自衛隊に改組、新発足したが、これは明らかに憲法9条違反だった。

 今年、安倍首相が「わが軍は・・・」と発言して、それを記者が指摘したら、「外国では自衛隊のことを軍隊といっているよ」と言って憚らなかった。本末転倒で真にお粗末である。

 自衛隊新発足は、自由党の絶対多数で可決され憲法違反論議も消えてしまった。その後、自民党以外が政権を取っても、憲法改正も自衛隊廃止も論議されてこなかった。自衛隊発足と60年以上も違憲論議がないことは、憲法無視が常態化した表れだろう。 将に、安倍は解釈改憲によって、この国民性を利用したと思われる。

 私は集団自衛権はある程度必要だと考えている。憲法前文に、「・・・・平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と正存を保持しようと決意した・・・・」とあるが、第2次大戦後の世界を観ても戦争や紛争はどこかで起こっていた。要するに、憲法は他力本願の安全策で実効性がないことが分かったのである。一方で、日米安保条約を結び、日本の安全を確保した。これも矛盾である。

 この安保条約は日本が米国に一方的に守ってもらうと言う片務的であるため、世界的には日本は米国の属国と見られ、公正な判断者とは思われていない。例えば、イラク戦争の時に、日本は米国の要請に直ぐ応じて自衛隊を派遣したが、独・仏は断った。結果的に米国が言う大量破壊兵器は無く、米国の侵略戦争に加担したことになってしまった。この様な状況のために、安保理・常任理事国入りに反対国が多い。従って安保条約は双務的にする必要があるが、米国が世界中に展開しているのに協力する必要はない。お互いに本国に対する防衛に限定すればよい。また、国連安保理が決議した平和維持活動には、自衛隊も参加させるべきであろう。 
 
 この様に、一国平和主義ではなく普通の国として国際貢献することが国際的に評価されることになる。安保条約も米国だけでなく、オーストラリアやカナダなどとも結び、安全の網を広げることが一層の戦争の抑止につながると思う。このような連携を深める中で在日米軍基地を返還させることが出来るであろう。

 この方の意見の大半を共有する筆者だが、日米安保条約の片務性と憲法9条の前文について、私見を述べておきたい。

 敗戦後間もなく締結された日米安保条約が片務的だとすれば、むしろ日本に不利な内容であり、米国に借りがあるから是正するというものでないと考える。

 第2次大戦後に起きた戦争や紛争にもかかわらず日本の安全と生存が守られてきたというが、日本の防衛のために米軍が関わるためには議会承認が必要な条件付きであることを知らない人が少なくない。沖縄の深刻な状況下の在日米軍基地は冷戦時代の米軍が朝鮮・ベトナム戦争の出撃基地とし、その後も米国の世界戦略上の重要拠点として温存してきたものであって、日本防衛のためではない。膨大な駐留経費の大半近くは日本が負担し、基地要員に治外法権的な特権を与えているなどは、米国側に有利な片務的条約なのである。

 キューバ危機の米ソ「一触即発」は、すれすれで回避されたが、沖縄でも、本国からの誤った命令に疑問を感じた駐留司令官の機転で、核ミサイル発射をしなかった「危機一髪」があったとされる。人為ミスによるすれすれの事態は、核ミサイル保有国に常につきまとうもので、沖縄の核ミサイル(照準は中国へ?)が発射されていたら、沖縄だけでなく本土の米軍基地にミサイルが飛んできた可能性があったのだ。
 
 国民の安全と生存を保持するどころか、国土全体の「ヒロシマ・ナガサキ化」ではないか。

 ロシアのシリア空爆とロシア航空機墜落(「IS」が犯行声明)との因果関係はまだ明らかではないが、集団的自衛権行使で米国の対「IS」作戦に参加する事態になれば、日本の民間航空機がターゲットにされない保証はない。

 集団的自衛権を巡る国会審議の安倍首相説明で繰り返された、日本人婦女子を乗せたアメリカ艦船の護衛やホルムズ海峡の機雷除去の現実性は、いつの間にか首相自ら否定的な応答をしたが、敗戦後の70年間、米国の艦船を日本が守ることを米国が要求したことはなかったのである。
 
 集団的自衛権行使が安倍首相の「70年談話」と国連演説にみるように、国連(改革の必要はあるが、国連憲章の精神と憲法9条は共通理念)を基盤として世界平和構築に寄与するには、軍事力による協力でなく、揺るがない「不戦の誓い」の「憲法9条」を世界の「平和憲章」として提案することこそが、唯一の被爆国であるわが国の独自性ではないか。

「憲法9条の会」がノーベル平和賞候補に挙げられたのは、「憲法9条」が画餅でない証なのだ。

 来年、日本は日中韓3首脳会談の議長国となる。

 南沙諸島の埋め立てに伴う領海の主権を主張する中国とその地域に既得権益をもつ米国の間に緊張が生じ、日米艦船の合同訓練・パトロールが計画されている。アセアン諸国の対応は経済的利害や政治的思惑から一枚岩ではなく、米国に同調するのは日本のほか、フィリピン・ベトナムとされる。そうした状況のなかで、習近平国家主席がベトナムを訪問し、中谷防衛相がベトナム米軍基地への日本艦船寄港の打診を行った。
 
 国際条約の「公海」の定義遵守で日米が同調するのはよいとしても、安倍政権支持の右翼的な人たちの不用意な言動が、再開した3首脳会談の行方に影を落とすことがあってはならない。

 3首脳会談の「共同宣言骨子」の各項を「画餅」としないため、FTA交渉(TPP大筋合意に中韓の関心は強い)や人的交流の促進に真摯に努め具体的成果を積み上げることで、アジアの近隣諸国に、安倍首相の外交手腕をみせる好機にしてはどうか。

 北東アジアは、世界有数の経済力をもつ地域になりながら、政府間の連携だけが立ち遅れているのだ。エネルギー、災害(自然・人災共)、環境、格差、テロ(サイバー攻撃も含めて)対策など、積極的に協力して取り組むべき課題は山積している。

 この地域の平和と繁栄に、安倍政権の「一挙手・一投足」が大きく関わっている自覚で、日米・日中の友好関係強化に取り組んでもらいたいと願う。


*(記事訂正)

前項で、シリア難民の数字を、国内に千2百万人、国外で4百万人と記したが、国内7百万人、合計千百万人と訂正します。(2015.11.5  記)


添付画像

2015/11/16 00:04 2015/11/16 00:04
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