文ちゃんがツブヤク!

 

                             201611月8日 

人類社会のパラダイムシフト

 

前号小論の『女性リーダーの時代へ』は、近代社会の理念の一つ“男女平等”が実現する過程であろうが、歴史的に続いてきた“男社会”が大きな転換期を迎えているとみれば、人類社会の「パラダイム・シフト」の一つと言えるのではないか。

 クリントン大統領候補やメイ英国首相の欧米社会で、新自由主義的経済のグローバル化がもたらした格差社会(富の偏在や貧困層の拡大)への国民規模の疑念と反発が炎上し、資本主義経済のパラダイムを変えようとする思潮も動きはじめている。

 ちなみに、“パラダイム”は、「ある時代の人々のものの見方・考え方を根本的に規定している概念的な枠組み」とされ、「女性リーダーの時代」の論議は、そうした視点に立つのが人類の未来にとっても、より有意義と思われる。

米国大統領選挙まで1ケ月を切った現在、2回目の討論会でのトランプ氏の「ロッカールームの雑談」の女性蔑視がクリントン氏の好食となったが、トランプ氏の過去のセクハラ被害者の出現と反論の無様さで、いっそうの顰蹙を買う羽目となった。

4百年前の明の官吏が著した『菜根譚』の1節の、「人の小過を責めず/人の陰私を発(あば)かず/人の旧悪を念(おも)わず/三者を以て徳を養うべし/また以て害に遠ざかるべし」という世俗の知恵(智慧と呼ぶほどではないが)に学ぶことを両氏に薦めたい。

 トランプ氏の“トデモナイ発言”で漁夫の利を得るクリントン氏が米国初の女性大統領になる予測を前稿に書いたが、接近していた支持率の差異が顕著になりはじめたようだ。

 それにしても、アキレ果てた候補がここまで支持率をのばしてきたのは、政治・経済状況への怒りにも似たやり場のない不満が米国社会に鬱屈しているからだ。共和党有力者にもトランプ氏の不支持やクリントン氏への投票を表明する人が出はじめ、若者たちの民主党エシュタブリッシュメントへの不支持も、“世界一強”だった米国の混迷と先行き不安を世界に知らしめている。

 選挙までの“論戦”のクリントン氏は低俗なスキャンダル合戦ではなく、主要な政策(TPP、シリア問題、対中・ロ政策ほか)と真剣に向きあい論じ合わなければ、善良な米国民の信頼を得られないだろう。 

 英国で2番目の女性首相になったメイ氏の前途にも、多くの難関が待ち受けているとされるが、EU離脱を決めた国民投票(キャメロン元首相の読み違いとされる)を“静かな革命”と見立て、「国を決定的に変える歴史的なチャンス」「英国民が離脱を選んだのは、英国に影響する政策や法律の決定に、英国がもっと決定権をもちたいことに加えて、数十年の間に生じた英国内の深い分断を反映している」として、バーミンガムの党大会で世論の歩み寄りを呼びかけた。EU史上の“一国家離脱”は世界史的な出来事で、英国・EUがどう変わり国際社会にどのような影響を及ぼすか注視された中のスピーチだった。

 島国的地勢の英国と欧州の関係は、経済的な理由で「欧州経済共同体」(EEC)に加盟(1973し、1975年の国民投票でEECに“是”を投じた。

初の女性英国首相サッチャー(197990)は就任して10年弱後、自由市場を超えて介入や関与を深めて通貨同盟に邁進するEC(欧州共同体)を強く批判し、長期政権の終焉の反EU演説(「ブリュージュ演説」1988)で生じた保守党内の反乱で、首相の座を追われた。

EU創設の「マーストリヒト条約」(1991)で経済・社会・通商の「欧州経済共同体」から通貨統合、政治統合、共通市民権への移行協議があり、欧州委員長ドロール(フランス社会党)氏の「ヨーロッパ社会民主主義的な統合像」(グローバル化への緩衝的機構となるEUを構築して、単一の市場・通貨の枠内で第1次・2次世界大戦で荒廃したヨーロッパの社会的連帯を模索する)の下で、ブレア元英国首相(労働党)もEU推進の積極的な政治家の一人だった。

 だが、EUの権限強化と規制・介入、東欧に拡大した加盟国からの大量移民による英国民の賃金低下と失業増加で、保守党内と支持層にEUへの懐疑主義が膨み、「自国のことは自らの手で決めたい」との主権的な自決意識を昂じさせ、保守党内の親EU/反EUの分断的賛否が、今回の思いがけない“離脱選択”となったのである。

「EU離脱」選択後のポンド下落で輸出が伸びて、景気落ち込みは予想ほどでないとされるが、インフレ懸念で低所得者(離脱を支持した)に不満がつのる予測もある。

 離脱反対だったスコットランド民族党(SNP)の女性党首ニコラ・スタージョン氏(英国議会第3党)が中央政界で存在感を発揮して離脱後の諸政策をめぐり、メイ首相と論戦を交える場面もあろうが、間もなく開かれる「欧州会議」に初登場のメイ首相の言動を見守りたい。

 豊洲・五輪の諸問題をめぐる“小池劇場”の一部始終がマスコミの絶好のネタになり、視聴者をよろこばせている。“豊洲”と“五輪”は別事案だが、第2環状道路の完成橋との接続点が築地市場内にあることで、五輪開催期日という時間的足枷がある。

 小池都知事は、都の幹部の隠蔽体質への一撃として市場長の格下げ人事を発令したが、盛り土問題の決裁責任者・石原慎太郎元都知事に送付した質問状に対して、“聞いていない、記憶にない、わからない”の回答が届いたというが、傲慢なこの“御仁”には女性蔑視をふくめ、トランプ氏に似た臭いもある。

 マスコミは専ら都担当部局間の組織的欠陥を論じており、コメンテーター(元中央官庁幹部)がこの種の公共工事の〝政官業〟の利権の構図をにおわせただけでは、隔靴掻痒の感を免れない。

「オリンピック・メインスタディアムの計画変更」が世間を賑わしたとき放映されたテレビドラマの筋書き(中央官庁の計画関係者が謀殺される)が、松本清張もどきのバーチャル・リアルでビックリしたが、豊洲・五輪の公共工事に関わるこの種の“疑惑”の探索は、検察にまかせるほかないだろう。

 舛添前都知事の公私混同問題に端を発した知事選で自民党公認候補に圧勝した小池氏の「都政改革」が、公約したように実現するか、これからいよいよ正念場にかかる。

 東京と福岡での衆院議員補欠選挙で小池・蓮舫両氏の自民・民進党代理戦争についてマスコミ解説者が、「女の闘いですネ」と“男社会風”な発言をしたが、「女性リーダーの時代」を迎えた世界からみて、なんとも興味本位で床屋的な政局論議ではないか。 

 ワールドニュースで南アフリカの大学生らが学費・食事・下宿代が払えない貧しい学生の教育の無償化を求める大規模デモを報じ、女学生リーダーが、「この背景には、格差・人種問題や政府・与党の不祥事や汚職の多発、過去の問題是正や新しい国づくりが進まない南アフリカで、かつての独立で手にした「自由」の意味が問われていると訴えた姿に、強い印象を受けた。

 第2次世界大戦・戦後の苦難の歴史を知らぬ若者らが社会を担っている世界で、復古的ナショナリズムが台頭し、国際協調の道を守ろうとする人たちとの間で、世代間のみならず若者(貧富/教育格差)を分断する闘いが始まっている。

 米国大統領選挙で若者の支持候補者が分かれている背景に“教育格差”と“所得格差”があり、大都会の大学生や高学歴で失業中の者はサンダースを、地方で学歴がなく、職に就けない者がトランプ氏を一般的に支持し、クリントン氏支持は双方で多くないようだ。

 この傾向は英国の「EU離脱」国民投票でも同様だ。台湾・香港の選挙にみる学生ら若者の愛国的行動力に比べ、わが国ではSEALⅮs等の新しい市民運動の兆しはあるものの、参院選では18歳で選挙権を得た世代をふくめ、政府与党に絡めとられた観がある。 

今年のノーベル文学賞が米国ミュージシャン・作詞家ボブ・ディラン氏に授与されたが、意表を突く人選に驚きながらも、つい〝ブラボー〟を叫んだ。発表会場に詰めかけていた報道陣に驚きの歓声があがり、拍手が鳴りやまなかったという。

「風に吹かれて」など数多くのプロテストソングのシンガー・ソングライターとして日本の若者たちやミュージシャンらのこころをとらえ、熱狂的な支持を受けたボブ・ディランは、公民権運動やベトナム戦争に揺れる若者の旗手でありヒーローだった。

 書棚の一隅に、『ボブ・ディラン全詩集』(対訳付・晶文社1992年⑰版)があるが、食道(がん)全摘出手術で入院中の見舞いに病室へ届けられた品の一つで、拙詩『日々新しく』がNTT社歌に選ばれて7年目のうれしい“励まし”だった。 その99ページの『時代はかわる』の1節。

  国中のおとうさん おかあさんよ わからないことは批評しなさんな/むすこやむすめたちは あんたの手にはおえないんだ/むかしのやり方は 急速に消えつつある/あたらしいものをじゃましないでほしい たすけることができなくてもいい/とにかく 時代はかわりつつあるんだから

  古代ギリシャの詩人ホメイロスのような偉大な詩人と称賛したノーベルアカデミーは、ボブ・ディラン氏とまだ連絡が取れてないというが、米国民は、“オレがオレが!ワタシはワタシは!” の大統領候補との人格・品性の隔絶を感じているだろう
か。     

添付画像
 新自由主義経済のグローバル化で世界に拡大する格差社会への対処や資本主義
発祥の地英国の「EU離脱」の道程では、マルクスが『資本論』で予見した「資本主義社会の人間疎外」の視点に立ち戻る必要があるのではないか。


                                                                               (2016.10.15記)


添付画像

2016/11/09 17:31 2016/11/09 17:31
この記事にはトラックバックの転送ができません。
YOUR COMMENT IS THE CRITICAL SUCCESS FACTOR FOR THE QUALITY OF BLOG POST
  1. 地球環境直球勝負(GIC結晶) 2017/09/03 15:38  コメント固定リンク  編集/削除  コメント作成

     現在の機械工学における構造材料の耐久性に対する主な問題点は強度ではなく、摩擦にある。島根大学の客員教授である久保田邦親博士らが境界潤滑(機械工学における摩擦の中心的モード)の原理をついに解明。名称は炭素結晶の競合モデル/CCSCモデル「通称、ナノダイヤモンド理論」は開発合金Xの高面圧摺動特性を説明できるだけでなく、その他の境界潤滑現象にかかわる広い説明が可能な本質的理論で、更なる機械の高性能化に展望が開かれたとする識者もある。幅広い分野に応用でき今後48Vハイブリッドエンジンのコンパクト化(ピストンピンなど)の開発指針となってゆくことも期待されている。

  2. 花神 2024/01/20 17:47  コメント固定リンク  編集/削除  コメント作成

    いよいよアルゴリズム革命か。