文ちゃんがツブヤク!
2016年11月13日
トランプ新大統領と米国の行方
ドナルド・トランプ氏の米国大統領選・当確の報で、世界に衝撃が走った。
人種差別や女性蔑視の暴言を連発し、極端な保護主義を唱えて共和党主流派から異端視された〝泡まつ候補〟が、開票当日までの予想を覆して当選したのである。
各国首脳の〝祝意〟の中で、プーチン・ロシア大統領、メイ英国首相、フィリピン・ドテルテ大統領、などは積極的な協力関係構築を表明。習・中国国家主席、メルケル・ドイツ首相らは、選挙中のトランプ氏発言の問題点に触れた。
安倍首相はといえば、電話で祝意を告げたなかで17日のニューヨーク会談を提案して、トランプ氏は快く受け入れたとされる。
日米安保条約の堅持やTPP批准促進について、オバマ政権関係者や先の上下院総会での安倍首相の演説を段取った共和党主流の関係者らと会うことが主な目的と思われる。
今回の選挙に関連して、『米国大統領予備選挙と日本の行方』『続 同名』『女性リーダーの時代へ』『人類社会のパラダイムシフト』の小論を寄稿してきたので、その要点と共に標題への拙論を述べさせていただく。
『米国大統領予備選挙と日本の行方』
4年毎の大統領選挙では、2大政党の民主・共和両党が各々の候補者を指名し、州毎の予備選挙または党員集会で選出された両党候補者が選挙戦を経て大統領が選ばれるが、これまでの共和党17人、民主党13名の歴代大統領は全て[WASP]だった。黒人のオバマ大統領当選は、人種の坩堝・米国の新しい〝夜明け〟を世界に印象づけたものである。
現在の共和党は、保守主義・キリスト教の立場で小さな政府を求め、国益尊重で力による秩序と強力な同盟関係による安全保障政策を基本に国際連合にはネガティブ。内政面では、人口妊娠中絶禁止、死刑制度存続、家族制度重視、不法移民反対、銃規制反対等伝統的な保守思想が特徴の政党である。
一方の民主党は一般的にリベラルな立場で大きな政府を容認し、労働団体やマイノリティの支持が多い。中絶完全自由化、死刑廃止、不法移民容認、労組重視、同性愛容認、宗教多様性容認などが特徴のリベラル思想の政党とされる。
今回の米国大統領予備選挙では、狂騒的様相が世界の耳目を集めたが、「自由と民主主義」の旗を掲げて世界をリードしてきた米国社会の驚くべき変貌を見せつけられた。立役者はなんといってもトランプ氏で、二番手はサンダース氏だった。
トランプ氏の罵詈雑言に拍手喝さいする白人支持者は、格差社会の下層労働者、教育を受けていない若者、失業中の大卒者たちで、「WASP」のエリート支配の象徴のようなクリントン氏に反感をもつ人も少なくないとされている。
「フォックス」以外、一様にトランプ氏に否定的な反応を見せた大手マスコミは、「ヒトラーと同じデマゴーグ。自画自賛が激しく傲慢。詭弁を弄して民衆支持を集めている」(ニューズウイーク)/「経験もなく、安全保障や世界貿易について学習する興味もない」(ニューヨーク・タイムズ)等を、報道や社説を掲載した。
読売新聞は社説で、トランプを支持する動きを「反知性主義」とし、「偉大な米国を取り戻す」「中国・日本を打ち負かす」などの発言や単純なスローガンは、危うい大衆扇動そのものだと評し、朝日新聞は、「トランプ氏は、米国と世界を覆う難題への冷静な取り組みではなく、むしろ、米国内外の社会の分断をあおる言動を重ねている」「大衆への訴え方が扇動的で、自由主義の旗手を自負する大国のリーダーに相応しくない」とし、さらに「米国は着実に白人が減り、中南米系とアジア系が増えているのだから、人種的意識があるならば時代錯誤」と書いた。
トランプ氏の排他・閉鎖的な発言が、古い考えの白人農民や仕事をラティーノ(ヒスパニック)に奪われている低所得労働者に大いに受け、資本主義のメッカ米国で「社会民主主義者」を標榜するサンダース氏への支持率が、「WASP」の優等生・ヒラリー・クリントン氏に迫ったのは、新自由主義経済のグローバリゼイションで、米国民の所得格差が驚異的に拡大したことに主要因があるのではないか。
共和党幹部や党員のなかにもトランプ氏の言動への批判が高まっているが、勢いはなかなか衰えない。
『続 米国大統領予備選挙と日本の行方』
トランプ氏は、「日本が不公正な貿易をやっている」とか「日本は安全保障にただのりしている」などと米日貿易や米日同盟について、ネガティブで過激な発言を繰返し、「共和党指導部は大企業のことや規制緩和、自由貿易推進のことしか考えていない」「連中はみんなのために働いていない」など、主流派と極右的なティーパーティの間に生じた亀裂につけ込んだキャンペーンで、不満を抱く共和党員の怒りの炎に油を注ぎ、さらに、支持者の白人貧困層に向けて、大きな政府を思わせる社会保障政策や自由貿易反対をさえ唱えている。
民主党候補者のサンダース氏は、優勢だったクリントン氏を追って7連勝したが、政策的に水と油の関係の共和・民主両党候補者が、社会民主主義的な政策を掲げていること自体に、アメリカ社会の混乱と変容の兆しを垣間見る思いがする。
米国経済政策には、不況時に政府が積極的財政・金融政策を導入するケインズ主義と、大規模な自由競争こそが経済を成長させるとする市場中心主義があり、80年代以降は共和党が唱える後者が圧倒的だった。70年代のスタグフレーションを契機に、物価上昇を抑える金融経済政策の重視が世界規模で生じて、共和党のレーガノミクスに代表される市場原理主義により、小さな政府の福祉・公共サービスの縮小/公営事業の民営化/経済の対外開放/規制緩和による競争促進/労働者保護の廃止などの経済政策が進められた。90年代には米国発の構造改革要求によって、日本経済はアメリカ型の市場中心主義へと傾斜し、わがもの顔で世界を跳梁する金融グローバリズムに巻き込まれていった。
「構造改革」の理念は第2次大戦後に生まれて、議会制民主主義の下で政治・経済体制等の基本構造を根本的に変更し社会問題を解決する大規模な社会改革を目指すものとしてEU諸国に取り入れられたが、「小泉改革」では、潜在GDPを拡大するために、供給側を重視した生産性を高める政策として狭義に捉え、資源配分の効率性を高める各種の制度(公的企業の民営化/政府規制の緩和/貿易制限の撤廃/独占企業の分割による競争促進)の改革をめざした。
金融グローバリズムは、米国の投機的資本に大きな利益をもたらし、市場中心主義のグローバル競争は、激しいコスト競争でデフレをもたらしたとされるが、このグローバル経済路線は、私たちを幸せにするどころか、生活と社会を不安定にしているのではないか。
安倍政権が「成長戦略の切り札」として今国会の会期内成立をめざすTPP承認案と関連法案が審議入りしたが、共和・民主両党の大統領有力候補者が否定的で、他の参加国にも見直し機運が生じている中、国会の論戦の行方を見守りたい。大切なことは、アメリカの様子見で従属的な政策路線をとるのではなく、国民の声に耳を傾け、「この国のかたち」をしっかり構想した上で、重要政策の策定・提案・実現に取り組むことであろう。
米国大統領予備選挙をきっかけにした米国社会の混迷と、社会の諸矛盾に気づき始めた民衆を国家権力で抑圧するような中国政府を「他山の石」とし、国際社会・近隣諸国との平和友好親善に努めることこそが、いま一番大切なことではなかろうか。
『女性リーダーの時代へ』
世界の元首・首長に「女性時代」の到来である。
G20に初参加した英国のメイ首相は、EU主要国や大英帝国時代に支配したインドの首相他の首脳たちと会談し、それなりの存在感を示していたが、国連常任理事国では英国のメイ首相に次いで、米国初の女性大統領にクリントン氏が就任する可能性が高い。EUを牽引してきたドイツのメルケル首相以降、ブラジルのルセフ大統領、朴槿恵韓国大統領、マルタのコレイロプレカ大統領、バングラデシュのワセド首相、モーリシャス大統領、ノルウエーとポーランド首相、ミャンマーのスーチー国家最高顧問、リトワニア大統領が、国家元首として女性リーダーの時代を築きつつある。国連機関や世界銀行・FRBなどの独立組織の首長で活躍している女性も少なくない。
クリントン米国大統領候補は、対抗馬トランプ氏のメキシコ・イスラム系移民への排除的言動で漁夫の利を得て大統領の座を勝ちと予測されるが、現在(9月上旬)の両陣営支持率の推移に予測を超えるものもありそうだ。共和・民主を問わず、エスタブリッシュメントへの対抗勢力が増す米国の社会状況にどのような政策で臨むのか。
男性支配が続いた人類史上の統治者が男性なのは、キリスト教の「男性優位」に表れているが、クリントン候補が直面する「ガラスの天井」はその象徴であろう。日本はといえば、東京新都知事小池百合子氏が、オリンピック関係予算と施設建設をめぐる諸課題と東京都政改革にどう立ち向かうかを、国民・都民が注視している。
「戦後強くなったのは女と靴下」と男性に揶揄された女性社会進出をマッカーサーの占領政策のせいにする向きがいまだ後を絶たない「男社会」の現状の日本だが、「民主国家」に改革する占領政策の一環の「男女平等と女子高等教育の実現」は、CIE(民間情報教育局)と女性地位向上に戦前・戦後を通じ取組んできた女性リーダーらとの連携・努力があったからだ。
人類社会の未来を預けられる人物なら、男女のいずれでもよいが、ロシア・中国に後れをとらないで、わが国に女性元首が出現するはいつのことか。
『人類社会のパラダイムシフト』
欧米社会で、新自由主義的経済のグローバル化がもたらした格差社会(富の偏在や貧困層の拡大)への国民規模の疑念と反発が炎上し、資本主義経済のパラダイムを変えようとする思潮も動きはじめている。〝パラダイム〟は「ある時代の人々のものの見方・考え方を根本的に規定している概念的枠組み」とされ、「女性リーダーの時代」の論議がそうした視点に立ってなされるのが人類の未来にとって、より有意義と思われる。
米国大統領選挙まで1ケ月を切った現在、2回目の討論会でのトランプ氏の「ロッカールームの雑談」の女性蔑視がクリントン氏の好食となったが、トランプ氏の過去のセクハラ被害者の出現と反論の無様さで、いっそうの顰蹙を買う羽目となった。
それにしても、アキレ果てた候補がここまで支持率をのばしてきたのは、政治・経済状況への怒りにも似たやり場のない不満が米国社会に鬱屈しているからだろう。共和党有力者にもトランプ氏の不支持やクリントン氏への投票を表明する人が出はじめたが、若者たちの民主党エシュタブリッシュメントへの不支持も〝世界一強〟だった米国の混迷と先行き不安を世界に知らしめている。
クリントン氏は、低俗なスキャンダル合戦ではなく、主要政策(TPP、シリア問題、対中・ロ政策ほか)と真剣に向きあい論じ合わなければ、善良な米国民の信頼を得られないだろう。
英国で2番目の女性首相になったメイ氏の前途にも、多くの難関が待ち受けているとされるが、EU離脱を決めた国民投票を〝静かな革命〟と見立て、「国を決定的に変える歴史的なチャンス」「英国民が離脱を選んだのは、英国に影響する政策や法律の決定に、英国がもっと決定権をもちたいことに加えて、数十年の間に生じた英国内の深い分断を反映している」と、離脱・残留で分断された世論の歩み寄りを呼びかけた。
EUの権限強化と規制・介入、東欧に拡大した加盟国からの大量移民による英国民の賃金低下と失業増加で、保守党内と支持層にEUへの懐疑主義が膨み、「自国のことは自らの手で決めたい」との主権的な自決意識を昂じさせ、保守党内の親EU/反EUの分断的賛否が、今回の思いがけない〝離脱選択〟となったのである。
米国大統領選挙で若者の支持候補者が分かれている背景に教育格差と所得格差があり、大都会の大学生や高学歴で失業中の者はサンダース氏を、地方の学歴がなく職に就けない者がおおむねトランプ氏を支持。クリントン氏支持は双方で多くはなく、この傾向は英国の「EU離脱」国民投票でも同様だ。
新自由主義経済のグローバル化で世界に拡大する「格差社会問題」への対処には、マルクスが『資本論』で予見した「資本主義社会の人間疎外」の視点に立つ「人類社会のパラダイムシフト」が必要ではないのか。
極めて扇動的ポピュリストと思われ、公職経験のないトランプ新大統領の出現は、米国と世界の先行きが不透明化し、米国主要都市では若者たちによる「反トランプ・デモ」が連日連夜起きている。
数年内に元首選挙を迎えるEU諸国でも、現政権の政策に不満をもち、人種差別や排他主義的言動のトランプ氏と似た考えの極右的勢力が台頭する兆しがあり、 EU内の移民・難民に仕事を奪われたとする各国の貧困層の主張とトランプ新大統領を選んだ米国白人ブルーカラーの不満・怒りは重なっている。
新大統領の当選が確実となった直後のトランプ氏は、傲慢不遜のイメージから一転して、クリントン長官からの電話への謝意と、分断した米国民を一つにするために働くと述べ、「トランプ氏は大統領になる人物ではない」としていたオバマ大統領は、当選の祝意と共に、選挙戦での誹謗舌戦をおさめ、平和的な引継ぎの準備に尽くすと言及した。合衆国憲法の精神にのっとる大統領選挙の伝統的情景なのだろうか。
小池劇場の演目に傾注していた日本のマスコミは一転、トランプ旋風に巻き込まれて、テレビ画面でさまざま論評が連日、賑わいでいる。
〝一国アメリカ帝国主義〟を唱えて新大統領の座をかち得たトランプ氏への〝毀誉褒貶〟は百家争鳴。ともあれ、政権発足に向けて閣僚などの膨大な政治任用ポストを決めるためには、副大統領ペンス氏の共和党主流との橋渡しや大統領最側近の首席補佐官の決定を見守ることだ。
一貫した政策を示さなかったトランプ氏は、既成政治エシュタブリッシュメントにタブー的政策を真っ向から唱え、不満と怒りに炎上した多数支持者の票を獲得することに成功したのである。
NAFTAの見直しやTPP締結反対は、民主党候補の一人サンダース氏も、減税措置をはじめとして、行き過ぎた自由市場主義がもたらす貧富の格差拡大と国内産業の衰退を強く批判しており、米国が締結したNAFTA(北米自由貿易協定)とTPPに批判的で、NAFTAでは、企業が米国内の生産をやめて、海外の賃金が低い国へ仕事を移した結果、労働者階級の家庭の痛手となって、約6万の工場の海外移転で、ビル・クリントンのNAFTAによる2年間で20万人の雇用創出の計画は、現実には、約68万人の雇用喪失になったと批判した。
TPPについては、その実質は究極の構造改革で大企業やウオール街のためにはなるが、労働者階級には厳しい協定で、企業が従業員の賃金を下げやすく、アメリカの雇用を海外移転しやすくなると反対を唱えたので、オバマ路線を継承するはずのクリントン候補も、サンダース氏に追従する始末だった。
敗戦後の私たちが憧れた「善きアメリカ」を支えていたミドル、努力すれば報われる「アメリカン・ドリーム」は、ドナルド氏を大統領に選んだ米国人に、〝見果てぬ夢〟となっていたのだ。
『(株)貧困大国アメリカ』の著者・堤 未果さんは、 アメリカの実体経済は世界各地で起きている事象の縮図で、いま世界で進行しているのは、新自由主義や社会主義を超えたポスト資本主義の新しい枠組み「コープラティズム」(政治と企業の癒着主義)だと指摘する。(以下は著書あとがきからの引用)
グローバリゼイションと技術革命によって、世界中の企業は国境を越えて拡大するようになった。
価格競争の中で効率化が進み、株主、経営者、仕入先、生産者、販売先、労働力、特許、消費者、 税金対策用本社機能にいたるまで、あらゆるものが多国籍化してゆく。流動化した雇用が途上国の 人件費を上げ、先進国の賃金は下降して南北格差が縮小。その結果、無国籍化した顔のない 「1%」とその他の「99%」という二極化が、いま世界中にひろがっているのだ。
巨大化して法の縛りが邪魔になった多国籍企業は、やがて効率化と拝金主義を公共に持ち込み、国 民の税金である公的予算を民間企業に移譲する新しい形態へと進化した。ロビイスト集団が、クラ イアントである食産複合体、医産複合体、軍産複合体、刑産複合体、教産複合体、石油、メディ ア、金融などの業界代理として政府関係者に働きかけ、献金や天下りと引きかえに、企業寄りの法 改正で、〝障害〟を取り除いてゆく。
コーポラティズムの最大の特徴は、国民の主権が 軍事力や暴力ではなく、不適切な形で政治と癒 着した企業群によって合法的に奪われることだろう。
この「コーポラティズム」はまさに、『アラブと私』で記した『エコノミック・ヒットマン』が進化したものではないか。
自らが関与した「コーポレイトクラシー」の真相を告発したジョン・パーキンス著『エコノミック・ヒットマン』 は、企業・銀行・政府の集合体で、経済的・政治的な力を利用して、グローバルな「経済発展」の名目の下に、各地の資源・環境を略奪し、労働力を搾取し、自由貿易協定を推進する活動体であり、その正当性を、教育・産業・メディアが連携して啓蒙と認知普及に努めているのが、世界各地で起きている事象なのである。
6人に1人の子供が貧困というわが国の経済格差状況とトランプ氏を支持するアメリカの格差社会の経済的貧困層の教育格差の固定化が、進学・就職・安定所得の機会の不平等を生み、その不満・鬱屈が社会を不安定にする悪循環を断つ政治・経済政策が求められているのである。
来日した南米ウルグアイのホセ・ムヒカ前大統領は、人類社会の格差拡大について、「次々と規制撤廃した新自由主義経済のせいだ。市場経済は富をますます集中させる。格差問題を解決するには、政治が介入して公正な社会をめざす。それが政治の役割というものだ。国家は社会の強者から富を受け取り、弱者に再配分をする義務がある」「怖いのは、グローバル化が進み、世界に残酷な競争が広がっていることだ。すべてを市場とビジネスが決めて、政治の知恵が及ばない。まるで、頭脳のない怪物のようなものだ。これは、まずい」「このまま大量消費と資源の浪費を続け、自然を攻撃していては地球がもたない。生き方から変えていこう、と言いたかったんだ」と講演して、聴講の大学生に感銘をあたえたという。
シンプルで過激なフレーズを連呼して大衆の不満と怒りを得票に変えたトランプ氏のやり口は、かつての〝小泉劇場〟になぞらえ、〝トランプ劇場〟と呼べるだろう。
マスメディアとクリントン候補支持者は、99%の貧困層が「既存政治をぶっ壊して、社会をひっくり返すことしか、長く続いてきた閉塞感を打破することはできない」との〝破れかぶれの選択〟に敗れたのである。
トランプ新米国大統領が、米国(共和・民主両党)が押進めてきたグローバル新自由主義経済が生んだ「格差社会」を変革して、貧困層の支持者たちを救済できるのかどうかは、容易なことではない。
非エリートの白人、男性、低学歴、ブルーカラー層の支持で大統領になるトランプ氏が、彼らの期待を裏切れば、アメリカで多発した大統領暗殺の事態が起きないとは言えないだろう。
民主党員も共和党に投票した1980年の大統領選挙「レーガン・デモクラット」どころか、共和党主流と対立したトランプ氏が、いかにして、「偉大なアメリカを取り戻す」歴史的役割を果たすことができるのか。
長い間民主党員だったというトランプ氏が、「小さな政府」「税金は少ない方がいい」とする共和党の綱領と相いれない、社会保障制度の拡充、公共インンフラ事業費の拡大、富裕層への増税や関税引き上げについて言及している一面もあるとされるので、典型的資本家トランプ氏が、前述した、〝マルクスが『資本論』で予見した「資本主義社会の人間疎外」の視点に立った「人類社会のパラダイムシフト」の必要〟に気づいてくれることを祈りたい。
(2016・11・12)