「文ちゃんの浦安残日録」 (Ⅰ―31)  
              
                                                                                                           2011年12月18日()

 

 久しぶりに、東 誠三のピアノ・リサイタルを聴いた。彼は、広大付属福山校第1期の同期仲間で、妻のお千代共々に親しい東 陽子さんの子息である。

 1962年生まれの彼が3歳のころ、絶対音感をもっているのに陽子さんは気づいた。

東京音楽大学付属校から東京音大に進み、1983年、第52回日本音楽コンクールで

第1位となる。フランス政府給付留学生としてパリ国立高等音楽院に留学し、日本国際、

モントリオール、カサドシュなど、多くの国際コンクールに入賞し、ヨーロッパ、北米

などでリサイタル・オーケストラ共演をして、真摯な演奏技術の鍛錬と豊かな音楽的感性から生まれる流麗洒脱な音色と生命力あふれるダイナミズムで、本格派ピアニストとしての国内外の高い評価を常に得ている。

 満席の紀尾井ホールでのプログラムは、“リスト・イヤー生誕200年”のリスト尽くしだった。アンコールの『ラ・カンパネッラ』『コンソレーション第3番』など三曲もだ。

 これまでのリサイタルではショパンの曲を中心に、流麗洒脱な演奏を多く聴いてきたが、芸大で教えるようになってからの彼が、自由奔放な演奏を抑制しているかのようなもどかしさを感じていた。ところが、久しぶりに聴いた演奏はまったく文句なしのすばらしさだった。リストの曲想を、彼になりきったかのように見事に弾いたのである。

 リストの人間性豊かでドラマティックな曲の数々を、繊細さと大胆さをない混ぜにしたタッチでかき鳴らし、私のこころの琴線を激しく共鳴させたのである。その音楽感性にリストとの親近性を強く感じたが、50歳を目前にした東 誠三は、いよいよ円熟の境地に入ったのであろう。

 プログラム収録の「円熟の時間(とき)を刻むリスト~東 誠三ピアノ・リサイタル2011に寄せて」を書いた池田卓夫は、福島県三春町で、ベートーベンのソナタ全曲演奏を進めている東 誠三が、東日本大震災被災地への強い想いを抱き、ブタベストの大洪水後のチャリティー演奏会を組織したり、ボンのベートーベン碑建立に多額の寄付をしたリストの“超絶技巧”の“技”よりも“精神”に目を向けていると述べている。

 閉幕後のロビーに、付属の同期と一年後輩のお千代の仲間など15人余の顔もあった。

誠三さんの指導を芸大大学院で受けている新進気鋭のピアニスト岸 美奈子さんの姿を見つけて、傍にいた陽子さんに紹介する。美奈子さんは、日本建築学会男声合唱団の伴奏ピアニストで、5年前の創立20周年記念演奏会の南伊豆の合宿練習で知己を得、来年3月の25周年記念コンサートもご一緒するが、リストの曲を独奏するステージもあり、団員一同・来聴者からおおいに期待されている。

 誠三さんは、精緻なピアノ演奏と対をなすようなエッセイの名手でもある。

 プログラムに記される彼の文章は、曲目の説明の域を超え、作曲者への想いや演奏への意気込みが伸びやかな筆致で書かれおり、いつも感心させられている。

 ピアニストのエッセイといえば、元職場・NTT建築総合研究所の仕事仲間の娘さんの

宮谷理香さんもすばらしい書き手。第13回ショパン国際コンクール第5位に入賞して以来、幅広い音楽活動で大活躍だが、自然体で知性があふれているのは、音楽性だけではなく、著書『理香りんのおじゃまします!』のウイットに富んだ文章でも目覚しい。

 こうしたピアニストとの親しい出会いに感謝している、浦安の残日である。



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