かつて、大地主であったとき、息子のように面倒を見てあげた姑の実家の甥や、兄弟のようにつきあっていた東英のかつての友人たちからも、あからさまに自分たちを遠ざけようとする気配を見てとった貞仁は、何としても自らの力で家族を養う算段をしてみた。学があり、社会経験も豊富な女たちでさえにっちもさっちもいかぬ戦のさなかなのに、貞仁のような女に、これという妙案があろうはずがなかった。いうところの、名門ヤンバン家の閨秀として育ち、十八歳で東英に嫁いでから世の中の物情を知らずに過ごした十余年だった。
ところが、戦争は子供たちの成育を急速に早めるのか、何カ月前までも世間知らずの鼻たれ小僧だった十四歳の勲(フニ)が、意外なことをやってのけた。母と祖母の話を傍で聞いていたその子が、恵化洞の家にしのびこんで、上等な絹のチマ・チョゴリ一着と、トゥルマギ(周衣)を持ち出した。
爆撃にやられるのを心配して裏庭の防空壕に隠しておいたのを見事に探しだして持ち帰ったのだったが、人が住んでいないどころか、見張っている人さえいなかったというのが見てきたフニの報告だった。貞仁はきつく戒めたが、どういうわけかフニは、それから二度も家捜しをして、値の張る什器などを無事に運びだしたのである。
そのうち、貞仁と姑が恵化洞の家に戻ろうと思い立ったのは、三度めにしのびこんだフニが、物置小屋の床に埋めてあった銀のさじ何組かと、食器を掘りだしてきてからだった。まず姑が様子を見に行った。
「捕まったらわし一人が口をつぐんで死ねば済むことじゃ」
代わりに行こうとする貞仁をきつく叱りつけてから、彼女はいささか悲壮な面持ちで出かけたが、やはり何事もなく、差し当たり必要なふとんのつつみを頭に載せて帰ってきた。それだけでなく、帰り道で治安隊長を兼ねている洞の統長に出会ったが、彼は、東英が何をしている人か、いまもって知らずにいるようだったし、帰ってきてもどうということはないと、太鼓判まで押していたとのことだった。
あの大きな邸宅に、誰も住んでいないということで、ある種のいやな予感を抱いていた貞仁も、そこでつい気をゆるめてしまった。それから、三人の幼い兄妹を前に立たせた五人家族が、夜道を急いでわが家に戻ったとき、一群の人々が合唱でもするかのように叫んで彼らをとり囲んだ。
「きたぞ。ついに全員、自分の足で歩いて戻ってきたんだ」
ほかでもない。姑を安心させたあの治安隊長が率いた町内の青年たちと、何人かの警察官たちだった。しかし、意気軒高と騒ぎたてながらフラッシュを照らしていた彼らは、急に悔しいといわんぽかりの口調で言い合った。
「奴はいない」
「気配を悟って逃げたんだ」
そうはいうものの、東英まで自分たちの陥穽にはまるとは期待していなかったらしかった。失望もつかの間で、彼らはすぐ、貞仁と姑を洞の治安隊本部にひったてて行った。それから何日間をあちこち引きずり回されたあげく、彼女たちは、他の地域で捕まった同じような立場の人たちと一緒に、今収容されているこの倉庫に連れてこられたのである。ニカ月前のことだった。
「どうやらこの者たちは、わしらを殺すつもりだな」
何度か形式的な取り調べをしてからそちらへ運ばれてきながら、姑が恐怖の面持ちで何回か眩いた。車が町中を外れて走っていたからだった。
1989年11月11日4面
ところが、戦争は子供たちの成育を急速に早めるのか、何カ月前までも世間知らずの鼻たれ小僧だった十四歳の勲(フニ)が、意外なことをやってのけた。母と祖母の話を傍で聞いていたその子が、恵化洞の家にしのびこんで、上等な絹のチマ・チョゴリ一着と、トゥルマギ(周衣)を持ち出した。
爆撃にやられるのを心配して裏庭の防空壕に隠しておいたのを見事に探しだして持ち帰ったのだったが、人が住んでいないどころか、見張っている人さえいなかったというのが見てきたフニの報告だった。貞仁はきつく戒めたが、どういうわけかフニは、それから二度も家捜しをして、値の張る什器などを無事に運びだしたのである。

そのうち、貞仁と姑が恵化洞の家に戻ろうと思い立ったのは、三度めにしのびこんだフニが、物置小屋の床に埋めてあった銀のさじ何組かと、食器を掘りだしてきてからだった。まず姑が様子を見に行った。
「捕まったらわし一人が口をつぐんで死ねば済むことじゃ」
代わりに行こうとする貞仁をきつく叱りつけてから、彼女はいささか悲壮な面持ちで出かけたが、やはり何事もなく、差し当たり必要なふとんのつつみを頭に載せて帰ってきた。それだけでなく、帰り道で治安隊長を兼ねている洞の統長に出会ったが、彼は、東英が何をしている人か、いまもって知らずにいるようだったし、帰ってきてもどうということはないと、太鼓判まで押していたとのことだった。
あの大きな邸宅に、誰も住んでいないということで、ある種のいやな予感を抱いていた貞仁も、そこでつい気をゆるめてしまった。それから、三人の幼い兄妹を前に立たせた五人家族が、夜道を急いでわが家に戻ったとき、一群の人々が合唱でもするかのように叫んで彼らをとり囲んだ。
「きたぞ。ついに全員、自分の足で歩いて戻ってきたんだ」
ほかでもない。姑を安心させたあの治安隊長が率いた町内の青年たちと、何人かの警察官たちだった。しかし、意気軒高と騒ぎたてながらフラッシュを照らしていた彼らは、急に悔しいといわんぽかりの口調で言い合った。
「奴はいない」
「気配を悟って逃げたんだ」
そうはいうものの、東英まで自分たちの陥穽にはまるとは期待していなかったらしかった。失望もつかの間で、彼らはすぐ、貞仁と姑を洞の治安隊本部にひったてて行った。それから何日間をあちこち引きずり回されたあげく、彼女たちは、他の地域で捕まった同じような立場の人たちと一緒に、今収容されているこの倉庫に連れてこられたのである。ニカ月前のことだった。
「どうやらこの者たちは、わしらを殺すつもりだな」
何度か形式的な取り調べをしてからそちらへ運ばれてきながら、姑が恐怖の面持ちで何回か眩いた。車が町中を外れて走っていたからだった。
1989年11月11日4面
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